「ホント早過ぎるよー。なんかもう私、目まぐるし過ぎてここ2週間の記憶がほとんど無いんだもん。記憶と引き換えに、姫の台詞はスラスラ口から出て来るようにはなったけどさぁ」
「あはは、まふゆが毎日俺の部屋に押しかけて読み合わせを強制するから、俺もすっかり王子の台詞を覚えたよ」
「へぇー? 毎日部屋で、しかも二人っきりで、読み合わせ?」
「なんかエロい響きだな」
「はいっ!?」
意味深にこちらを見やる雨美くんと、真剣な顔で言葉を返す夜鳥くん。
それに私は真っ赤になって反論する。
「別に全然エロくないからっ!! そう感じるのは、夜鳥くんが年がら年中そんなことばっか考えてるからじゃない!?」
「おまっ! まるで人を色情魔みてぇに……!」
「純然たる事実でしょ!」
「夜鳥は前科が多すぎるからな。そう思われても仕方がない」
「ですよねー、ボクもそう思います」
「水輝っ! お前だって同じこと考えてた癖に、何一人だけ他人事ぶってやがる!?」
ぎゃあぎゃあと、またくだらないことで言い争いを始める夜鳥くんと雨美くん。
それを楽しそうに見ている九条くんは、2週間前に「時間がほしい」と言っていたのが嘘のように〝妖怪国の王子様〟を完璧に演じられるようになっていた。
『ごめん、少しだけ……こうさせて』
それがあの夜の出来事が契機となったのかどうかは分からない。
けれどあれ以来、九条くんの表情がどこか吹っ切れたものなのは確かだ。
彼の抱えるトラウマのいくらかが軽くなったのだとしたら、やっぱりあの時部屋に押しかけて、無理にでも九条くんの本音を聞き出してよかったのだと思う。
「ま、それはともかく。演劇部の舞台、オレらも観るの楽しみにしてるぜ」
「雪守ちゃんと九条様が主演な上に二人のキスシーンまであるって大騒ぎだから、きっと当日はほとんどの生徒が観に来るだろうね」
「キッ……!!」
不意打ちで喉がゴフッと詰まりそうになる。
なんでキスシーンがあることまで、上演前に既に漏れてる訳!?
「もうっ、それはいいから!! 時間無いんだし、いい加減体育祭に話を戻すよっ!!」
熱いくらいの頬を冷まそうと、私はブンブンと首を振る。
すると雨美くんと夜鳥くんが、その様子をニヤニヤとやらしい笑みを浮かべて見ていることに気づいた。
こ、こいつら……。他人事だと思って……。