だからこそ、伝えたい。
「――ねぇ、九条くん。私はね、なんで王子様がお姫様に自分の気持ちを伝えたのか、分かるんだ」
「え?」
私の言葉が意外だったのか、九条くんの金色の瞳が大きく見開く。
それにドキリと胸が跳ねたが、構わず続ける。
「だって、一度自覚したら止められないんだもの。〝好き〟って気持ちは」
「――っ、」
九条くんは信じられないというように顔を歪ませる。
いつだって余裕そうな表情ばかり見てきたから、そんな彼の顔を見るのは初めてだった。
「〝止められないから〟……なんて、都合の良い言い訳だ。相手を置いていくと分かっていて、想いを告げるなんて卑怯だ。だって自分自身はそれで満足でも、残された相手はどうなる? 傷つかないか? 悲しませないか?」
相手を想って怒る九条くんは優しい。その気持ちは痛いほど分かる。
でも、だからこそ私は伝えたい。
「もっと九条くんはワガママになってもいいと思うの」
「は……」
九条くんは虚を突かれたように固まり、私を見つめる。
「だって王子様はたまたま病気だったけど、健康な人だっていつ死ぬかなんて分からないじゃない? それこそカイリちゃんの両親みたいにお互いそれを承知で夫婦になった人達だっているし、うちのお母さんは生きているにも関わらずお父さんとずっと会えてないけど、幸せだって笑ってる」
「……っ、それは……!」
「王子様が病気だからって想いを伝えることを遠慮して、それで本当にお姫様は幸せ? むしろそっちの方が傷つかない? 悲しまない? だってお姫様は王子様のことが好きなんだよ。きっと短い間だったとしても王子様に愛されて幸せだったと思うよ、お姫様は」
だからボロボロに泣き崩れていた彼女は最後に笑ったのだ。
楽しい時間を、幸せを、『ありがとう』――と。
「――――」
「あ……、」
ふと視線を落とすと、ポタッと床に水滴が落ちる。
それが九条くんの涙だと気づくのには、しばし時間を要した。
「く、じょ……くん……」
「っは、はは……」
「!」
声を掛けるとトンッと、九条くんの頭が私の肩にぶつかる。
笑う声は震え掠れていて、顔を見なくても泣いているのだと分かった。
「くじょ……」
「ごめん、少しだけ……こうさせて」
「…………」
どうしてそんな、泣くほどに思い詰めているの?
本当に九条くんの中でトラウマになっているのは、ばあやさんのことだけ?
まるで本当に〝妖怪国の王子様〟であるかのようだった、九条くんの読み合わせ。
それに言い知れぬ不安が脳裏をよぎる。
でも――、
「……うん」
今は何も聞かない。……ううん、聞けない。
じんわりと肩口に染みていく涙。
それに気づかないフリをして、私はそのサラサラな銀髪をそっと撫でた。