「それでどうしたの? わざわざ俺の部屋まで尋ねてくるなんて、よっぽどだろ」
「ん、うん……」
やはり私の考えなどお見通しだったらしい。
一旦缶箱のことは忘れ、ごくんと口に入っていたちんすこうを飲み込んで、向かいに座る九条くんを改まって見た。
「あのね、実は私。九条くんが帰った後、朱音ちゃんから九条くんの過去……ばあやさんのことを聞いたの」
「! ああ、そうなんだ……」
驚いた表情の九条くんに気まずくなり、私はガバッと頭を下げる。
「ごめんね! 勝手に自分の過去を知られて、いい気はしないよね!」
「いや、いいんだ。顔を上げて。朱音がまふゆに話すと判断したんだ。俺も別にまふゆに知られて構わない」
「…………」
それになんと返していいのか分からず、おずおずと顔を上げた後はしばし沈黙が続く。
すると少しして、九条くんがポツポツと話し出した。
「……前に〝いなり寿司は俺にとって、思い出の料理〟って言ったこと、覚えてる?」
「もちろん覚えてるよ」
忘れもしない、まだ私が九条くんに対して警戒心バリバリだった頃。
私は九条くんに連れられて、学食の貴賓室でお昼ごはんを食べたのだった。
『良いことと悪いことが混ざり合った思い出……かな』
『うん?』
あの時、どんな思い出なのかと聞いた私に対して返した九条くんの言葉。
その大切に何かを懐かしむような様子に、結局私はそれ以上何も聞くことは出来なかったんだっけ。
「もしかして、いなり寿司にまつわる思い出って……」
「うん、全てばあやのことだ。いなり寿司はばあやの得意料理だったんだ。俺は彼女の作るいなり寿司が大好きで、幼い頃は毎日のように食べていた」
「そっか……」
〝良いことと悪いことが混ざり合った思い出〟
『……多分、神琴様はこの〝ばあや〟の体験がトラウマになってる。それで自分の不用意な行動が相手に齎す影響をとても恐れていらっしゃるの』
九条くんの言葉がキッカケで、ばあやさんは姿を消した。
それは幼い彼にとって、どれほどショックなことだっただろう。
年月が過ぎた今でも、九条くんは未だ癒えない傷を負っている。
