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「わぁーっ! いい見晴らし! 屋上からだと、皇宮がハッキリ見えるんだねぇ!」
「う、うん……」
もう放課後ということもあり、屋上には私達以外の人影はない。
朱音ちゃんの視線の先を辿れば、森のように広大な木々に囲まれた緑青の屋根が目を引く巨大なお城が見えた。
――皇宮。
それは皇帝陛下の住まいは元より、祭事を行う宮殿、更には多くの宮仕えが働く庁舎も併設された日ノ本帝国の中枢と言える場所。
私も帝都に来た当初は、噂に違わぬ巨大で立派なお城に心躍らせたものだ。
でも今はそれどころじゃない。朱音ちゃんが何を話そうとしているのか、気になって気になって仕方がなかった。
「あの、朱音ちゃん。話って……」
景色に歓声を上げる朱音ちゃんに、私は思わず急かすように尋ねてしまう。
すると朱音ちゃんはこちらを振り向いて、「うん……」と苦笑した。
「まだまふゆちゃんには話したことなかったよね。神琴様の、日ノ本高校に通われるまでの……過去」
「それは……」
ドキリと心臓が跳ねる。
今まで断片的にしか聞きかじったことがなかった、九条くんの過去。
あの九条家の地下室での一件を見るに、三大名門貴族の次期当主として生まれながらも、それに相応しい扱いはあまり受けてこなかったことが伺えた。
「ごめんね。さっきの二人の会話、途中からだけど聞いていたんだ。神琴様、さっき〝王子様の気持ちが理解出来ない〟って言ったけど、それはあの方の過去が関係していると思うの」
「……それって、どんな過去なの?」
「昔ね。神琴様が5歳の時に、彼付きの侍女が居たの。神琴様は彼女のことを〝ばあや〟って呼んで、とても懐いていらっしゃった」
「ばあや……さん?」