「雪守さんは部屋は何階?」
「一階。九条くんは?」
「俺は二階の一番奥だよ」
考えている内に高校からそう遠くない場所にある学生寮に到着した。遅い時間だから寮生はもう部屋に戻っているようで、玄関には寮母さんしか居なく、しんと静かだ。
木造2階建のごくごく普通の寮。私にとってはなかなか快適だが、貴族が住む場所ではないのは明らかだ。体のムカムカモヤモヤが広がっていく。
「じゃあ明日も保健室で待ってる」
そう言い残し、慣れたように寮母さんに挨拶をして、九条くんは2階に上がっていった。その様子に本当にここに住んでいるんだと、ようやく実感する。
「あらあら、神琴くんがまふゆちゃんと。しかもあんなに楽しそうに学校から帰って来るの、はじめて見たわ」
「え……?」
寮母さんの言葉に目をパチクリさせる。
「楽しそう……でしたか?」
確かに笑顔も見せてはいたが、楽しそうだったかは疑問である。
しかし私の微妙な顔をよそに、寮母さんは嬉しそうに話を続けた。
「神琴くんね。この寮に来た当初から、学校へ行く時も帰って来る時も、いつも辛そうな顔をしてたの。だからお節介だけど、学校で上手くいってないんじゃないかって、心配で堪らなくてね。でもまふゆちゃんと仲良くなったのね。なんだか安心したわ」
「そう、なんですね……」
にこにこと笑う寮母さんに曖昧に微笑んで、私は1階の自室へと向かう。
「――――――っ」
部屋に入った途端、行儀は悪いが私は靴を履いたままベッドに思いっきりダイブした。粗末な作りのベッドが私の体重を受け止めて、キシリと鈍い音を立てる。
寮の家具は備え付けだから、きっと九条くんも同じベッドで寝るんだ。こんなちっぽけな部屋で。
そんなの私だって同じなのに、何故か考えると胸がムカムカモヤモヤどころかキュウっと苦しくなった。なんだこれ。
きっと余計なことを考えてしまうのは、今日は色々なことがあったから疲れているせいだ。
朝から九条くんに妖力を使って契約関係になって、一緒に授業を受けてお昼ごはんを食べて、生徒会室では燃やされそうになって。
「思い返してみると、とんでもない一日だったのね……」
でも楽しかったなぁなんて思っている自分に少し驚いて。なのに不思議と納得して。
「ああ、晩ごはん……」
食べに行かなくちゃって思うのに、ベッドの柔らかくひんやりとした感触が心地良くて、体が思うように動かせない。
「…………」
そうやって微睡んでいる内に、いつの間にか私の意識は完全になくなっていた。
今日は一日よく頑張った。
明日もまた、頑張ろう。