「きゃあ!! まふゆちゃーんっ!?」
「うわっ!? 頭から湯気出てんだけど!?」
頭のキャパシティが完全に超え、そのままひっくり返った私。
「……あ」
「あらあら副会長さん、気がついた?」
目を覚ますと視界にどアップで飛び込んできたのは、部長さんだった。
「……っ!??」
それにギョッとして飛び上がれば、肌触りの良いブランケットがお腹からずるりと滑り落ちた。
どうやらここはまだ演劇部の部室。例のゴージャスな金の縁取りのされたソファーに私は寝かされていたようである。
「あの……、他のみんなは?」
「朱音とカイリは隣の練習室。会長さんは副会長さんのカバンを取りに教室へ戻っているわ」
「あ、そういえばカバン、教室に置きっぱでした……」
言いながら絨毯に落ちたブランケットを拾い上げると、頭が妙にスッキリしていることに気づく。
もしかして気絶してそのまま寝ちゃったんだろうか? このソファー、お布団みたいにふっかふかだしあり得る。
じゃあ倒れる前のあれやこれやも全部夢だった、なーんて――……。
「はい、副会長さん」
しかし現実逃避する私を引き戻すように部長さんから差し出されたのは、〝人間国のお姫様と妖怪国の王子様〟と記された分厚い台本。
……やっぱり夢じゃなかった。
「早速で本当に申し訳ないんだけど、明日から読み合わせをするから、今日はしっかり台本を読み込んできてねぇん」
満面の笑みで告げられ、口元が引き攣る。
だが既にポスターは学校中に貼り出され、私と九条くんの舞台主演は周知の事実。
完全に外堀は埋められていた。
ここで今更イヤと言っても逃げ場はない。
「……はい」
結局私は大人しく台本を受け取る他なかった……。