「なんでも演劇部では、ちょうど優れた歌い手さんを探していたそうです。それで魚住さんが入試を受けている時に、たまたま演劇部の部長さんも彼女の歌を聞いていたらしく……」

「試験が終わるなり、『アナタの歌に一目惚れしたから、ぜひ演劇部にっ!!!』って、ものすごい圧で言われて、断るに断れなくなったって訳」

「あはは、そっかそんな経緯が……。なんかその光景、目に浮かぶかも」


 疲れたように溜息をつくカイリちゃんを見ながら、なんだか朱音ちゃんが入部した時を彷彿(ほうふつ)とさせるような話だなぁと思う。

 なにせ演劇部の部長さんといえば……、


『ダメよっ!! 舞踏会に出る女にとって、ドレス選びは命そのものよ!! いい加減な真似は許されないわっ!!』


 もはや懐かしい後夜祭の際には、私も体を剥かれ、揉まれ、締め上げられ、……(以下略)本当に色々お世話になったものだ。
 思わず遠い目をして、野太い声と大柄が特徴の、優しいオネェさんを思い出す。

 でもキャラが濃いだけじゃなく、なんだかんだすごいんだなぁ、あの部長さん。
 朱音ちゃんといい、次から次へと優秀な人材を演劇部に引き入れてる。


「ま、入ると決めたからには経緯はどうあれ頑張るさ。早速今月末にやる舞台からあたしも出るから、よかったらアンタも観に来てよ」

「うん、もちろん行くよ! その舞台の準備は、朱音ちゃんも前々から張り切ってたしね!」

「ああ、そういえば朱音も演劇部なんだったな。夏休みも本当なら、その舞台の準備があったんだっけ」

「そうなの!」


 夏休み前から舞台の話は、朱音ちゃんからちょくちょく聞いていた。
 差し入れを持っていく度に、立派なセットが出来上がっていくのもこの目で見ている。
 その彼女が手がけた舞台セットでカイリちゃんが歌うのだ。どんな風になるのか、今からめちゃくちゃ楽しみで仕方がない。

 私はぎゅっと拳を握り、満面の笑顔でカイリちゃんに告げた。


「絶対に絶対に観に行くから、頑張ってね!! カイリちゃんっ!!」


 ◇


 ――しかし翌日の放課後。

 学校中に貼り出された演劇部の舞台告知ポスターを見て、私は絶叫することになる。

 何故ならひときわ目を引くクソデカフォントで書かれていたのは……。


〝主演、九条神琴・雪守まふゆ〟


「はあああああああああっ!!?」


 なんと私と九条くんの名前だったのだ……!!