日ノ本高校には内部進学制度があるので、卒業生の大半はそのまま日ノ本大学に進学する。
対して私は、将来のことを考えれば出来れば大学に進学して勉強を続けたいところだが、費用の問題もある。正直悩ましいところだった。
「ええ? 雪守ちゃんの成績なら余裕で特待生で、授業料も全額免除でしょ」
「細けぇことは後にして、雪守も〝内部進学〟って調査票には書いとけよ」
「あは、ははは……そう?」
そんな適当でいいのか? と思うが、ではすっかり馴染んでしまった帝都を後たった一年半で離れられるのかというと、離れ難いのは事実だった。
私がわざわざティダから遠い帝都にある日ノ本高校を進学先に選んだ理由は、ここが帝国有数の名門校だったから。
学歴をつけてティダに戻り、お給料の高い職に就く。それでお母さんを助けたいという気持ちで決めた進学だった。
――でも、
今はいつか来る、帝都を離れる日が怖い。
だって、帝都を離れてしまったらもう――……。
「……九条くん?」
そこでちらりと視線を九条くんに向けて、私は彼の様子がどこか変であることに気づいた。
普段の感情があまり読めない涼しげな表情ではなく、どこかぼんやりと虚ろな目。
「どうしたの? ねぇ」
不安になって肩を揺さぶれば、ハッとしたように九条くんが私を見た。
「! えっ、ああ、ごめんっ! ちょっと進路について考え込んでしまって……」
「えっ?」
てっきり体調が悪くなったのかと思ったので、意外な言葉に私はキョトンとする。
だって九条くんはあの三大名門貴族のひとつ、妖狐一族九条家の次期当主。
進路など悩むべくもない筈なのに……。
「……もしかして、大学に行かないの? あ、それか内部進学じゃなくて、別の大学に行くとか……?」
「いや……、ううん。多分、内部進学はすると思う。でも、その先は……」
「……?」
困ったように言い淀む九条くんに、私の瞳は揺れる。
――まただ。
また、九条くんは曖昧に〝未来〟を濁す。
そしてその度に私は思い出すのだ。
あの、皇帝陛下の言葉を――。
『昔から妖狐一族の男子には、この彼のような病を生まれつき患う者がいるらしい。私の友人もまた、同じ病に悩まされていた』
九条くん以外にも、彼と同じ病を患う妖狐一族がいたのだ。名前は紫蘭さん。
そして、その紫蘭さんこそが――……。
