「まぁそうよね。じゃあ特別に、この風花さんからプレゼントよ」
「え?」
ペラっと下を向いたあたしの目の前に突き出される、何か薄っぺらい紙。
「これは……?」
受け取ってみれば、〝パンケーキ無料券〟と印字されていた。
「それは今日オープンした、パンケーキ屋さんの無料券よ! わたし、そこの店長さんとは釣り仲間でね。よかったら食べに来てって、この前貰ったのよ」
「えっ? じゃあこれは風花さんが……」
慌てて券を返そうとすると、風花さんはぶんぶんと首を横に振った。
「無理むり! カイリは知らないかも知れないけど、最近のパンケーキって生クリーム盛り盛りで、おばさんには胸焼けがちとキツいのよ。こういうのは、〝若者の味〟って言うの。食べ盛りの子が食べなさい!」
「はぁ……」
風花さんはよく自らを〝おばさん〟と自虐するが、その容姿は若々しく、とてもあたしと同い年の娘がいるようには見えない。
釣り仲間や屋台仲間も多く、社交的で明るい風花さんを本気で狙ってる男達が大勢いるのも、あたしは知ってる。
まぁみんな風花さんが既婚者と知って、一様に落胆してたけど……。
――実は一度だけ、風花さんに旦那さんはどんな人なのか聞いてみたことがあった。
『どんな旦那ぁ? そうねぇ……どうしようもなく破天荒で、決めたことは絶対に譲らない、頑固者よ』
『へぇ……』
正直風花さんよりも破天荒な人というのが想像つかなかった。
けれどそう語る彼女の表情は初めて見るもので、あたしはドキッとする。
だってまるで――……、
『……でも、誰よりもカッコいい人かな』
あの銀髪の妖狐と一緒にいる時の、まふゆみたいな顔をしてたから。