「てめぇ、雷護、今なんつった? ボクには執事よりメイドの方がなんだってぇ?」


 ドスの効いた声を出しながら、雨美くんが夜鳥くんへとヒタヒタと近づいて行く。あああ、遅かった。

 この雨美くん。普段はタレ目で背が小さめの、女の子みたいに柔和な雰囲気の男の子なのだが、この〝女の子みたい〟というのが本人の多大なコンプレックスらしく、それを言われるとこのように豹変しちゃうのだ!


「うっせぇ! 女みてぇなヤツに女みてぇって言って何が悪りぃんだよ!?」

「てめぇ、まだ言うか!!」


 夜鳥くんも言えばこうなるって分かっている癖に、何度も同じことをやらかしている。なにせ良くも悪くも自分に正直な男だ。思ったことは何でもストレートに言う。
 とはいえ、このままでは会議どころではない。早く場を鎮めなくては。


「え、えーと、二人とも。まだ議題あるし、とにかく席に着いて……」


 ゴオォォォォン!! ドオォォンッッ!!!

 しかし蚊の鳴くような私のか細い声は、雷と水の妖力がぶつかり合う爆音に一瞬にしてかき消されてしまう。あああ……。


「も、木綿先生……」


〝助けて〟と、すがる様に先生の顔を見るが、しかし二人の強力な妖力に当てられたのか、白目を剥いて伸びている。ダメだこりゃ。
 し、仕方ない! 先生が使い物にならないなら、私がなんとかしなければ……!


「……っ!?」


 だがそこで、不意にチリッと頬が焼けつく感覚があり、私はハッと視線を上へと彷徨(さまよ)わせる。


「え……?」


 手のひらを差し出すと、パラパラと火の粉が落ちた。
 あれ……? そういえばさっきから、九条くんが妙に静かだったような……?


「――――っ!!」


 それに思い至った瞬間、私は勢いよく九条くんを見る。すると彼の右手からはもうもうと炎が上がっていて、私は目を剥いた。


「雨美、夜鳥、君たちいい加減にしなよね」


 静かに発せられた声が、やけにハッキリと頭に響き……。


 ――その後のことは一瞬だった。


 完膚なきまでに燃やし尽くされた雨美くんと夜鳥くんは、ずぶ濡れだった筈がすっかり焼け焦げて。とばっちりの火の粉をモロに被ったらしい木綿先生が、「熱いぃ!! 布だから燃え尽きちゃうぅぅ!!」と騒いでいた。

 こうしてドタバタのまま、九条くんを迎えて初めての生徒会は終了したのである。


 本日の生徒会活動報告。
『やっぱり妖狐の火は怖い』