「……っ、ごほっ! ごほっ、ごほっ!」
「お父さまっ!?」
計算よりも早く来た発作に心の中で舌打ちをして、とっさに休める場所を探して周囲に視線を走らせる。
「お父さま! お父さま!」
「大丈夫だよ。ビックリさせてごめんね」
息子には手のひらについた吐血の後を見せないようにして、どうにか城の敷地内に設置された休憩用のイスに座って一息つく。
今にも泣き出しそうな息子の頭を撫でてやって、自身の体に溜まった熱を吐き出すように息を吐いた。
「はぁ……」
――妖狐一族男子にのみ現れる奇病。この病とも、もう26年。随分と長い付き合いになった。
あちこちの医師を尋ね、時を経る内に発作が起きる間隔や、症状を和らげる呼吸法など、日常生活を人並みに送る術は学んでいったものの、病の根本的な解決法は未だ見つかってはいない。
発作の間隔は年々縮まり、症状は重くなっていく。もう僕に残された時間はそう多くはないだろう。
「……ぐす」
息子が鼻をすすりながらぎゅっと僕に抱きつく。
幼子特有の高い体温に包まれ、張り詰めていたものが緩んでいくのを感じながら、僕はそっと息子の小さな背中を撫でた。
この子も今は元気そのものだが、いずれ近い内に病を発症し、僕と同じように症状に苦しむことになる。
それが妖狐一族男子の運命とはいえ、どうか息子だけはこの理不尽な運命から逃れてほしいと願ってしまう。
「…………」
不意に妻の顔が頭に浮かんだ。
黙って屋敷を出てティダに来たことは、とっくにバレている頃だろう。
怒るかな? いや、息子を連れ出した時点で怒るどころか血祭り確定か。
容易に浮かぶ怒り顔に苦笑して、次に浮かんだ泣き顔に、僕の笑みが消える。
『……う、っ……ああっ……!!』
息子が生まれた時、気丈な妻が初めて泣いた。
僕が君の涙を拭ってあげられるのは、後何回だろうか――……。
