夏も真っ盛り。今日もティダは快晴。
むしろ酷暑という表現が正しいんじゃと思う程、ギラギラと照りつける太陽が眩しい。
……はてさて、帝都は今どんな天気だろうか?
「お父さま、ぼくお腹空いたー」
「おお、そうだな! もうすぐお昼だ。何か食べにお店に入ろうか」
「やったー!」
腕を引っ張る息子に目線を合わせてそう言えば、僕と同じ銀髪を元気いっぱいに揺らして喜んでくれる。
うん、うちの子ホント可愛い。
考えていたことなどあっという間に吹き飛んだ僕は、息子の手を引いて〝ソーキそば〟と看板が掲げられた、南国建築が目を引く赤瓦の屋根の店へと足を踏み入れる。
今日はせっかく息子との初めての旅行なのだ。
目一杯楽しまなければ。
◇
「はいよ、ソーキそばといなり寿司のセットね」
注文してすぐに運ばれてきた料理に、息子が待ちきれないように目を輝かせる。
それに思わず笑って、取り皿に移して冷ましてから食べさせてやる。
「美味しいか?」
「おいしい! あっちのいなり寿司も食べたい!」
「おー、今取ってあげるから待ちなさい」
息子の小さい口には到底入らないであろう、大きないなり寿司を箸で半分に分けて食べさせてやる。
すると息子はいなり寿司を口いっぱいに頬張って幸せそうに顔を蕩けさせた。
それを見て、僕もいなり寿司を一口頬張る。
うん、美味しい。どうやらティダのいなり寿司は帝都のものとは作り方が少々違うようだが、これはこれで美味しかった。
「いなり寿司もっと!」
「ははは、本当にいなり寿司が好きだなぁ」
妻が幼い頃から仕えている侍女の得意料理がいなり寿司ということで、妻も息子もその彼女が作るいなり寿司が大好物だ。僕も食べたことはあるが、確かに優しい温かみのある味がした。
そしてどうやらこのティダのいなり寿司も、息子の口にあったらしい。
では妻の口にも合うだろうか?
一瞬そんな考えが頭をよぎったが、しかし帝都までいなり寿司を持ち帰ることは無理だし、レシピを覚えて再現しようにも僕は料理が出来ない。
仕方ない、別のものを土産にしよう。そう考えて、食べ終えると店を出る。
すると息子が何か見つけたのか、また僕の腕を引っ張った。
「お父さま、隣のお店は何?」
「ん? ああ、これは……」
見ればソーキそばの店の隣に、獅子人形の絵付けやホタル石のアクセサリー作りなど、観光客向けの工芸体験を行なえる店が建っていたようだ。
アクセサリー……、ふむ。
「ちょっとやってみようか?」
「うん!」
笑顔で頷いた息子に微笑んで、僕達は軽い足取りで店内に入った。