「ちょっ、ちょっとぉ!! 魚なんて積み込んだのお母さんでしょ!? ビチビチしてるし、生きてんじゃん!!」

「は? 何当たり前のことで騒いでんの? 魚は鮮度が命なんだから、生きてて当然でしょーが」

「そういうこと言ってるんじゃないよ!! 方舟に乗せたら船内が生臭くなるって言ってんの!! みんなも魚と同乗なんてイヤだよね!?」


 同意を求めて力強く振り返れば、何故かみんなは拍子抜けするほどケロリとした顔をしている。

 え、何その反応?


「はあ? 別に魚くれぇ、オレは気にしないけどなぁ」

「うんボクも。元々水棲の生き物は好きだし」

「まぁまぁ雪守さん。せっかくの風花(かざはな)さんの好意を無碍(むげ)にしてはいけませんよ」

「えへへ。みんなで食べたお魚すごく美味しかったし、帝都でも食べられて嬉しいな」

「ぐっ、う……!?」


 毒されてる!! みんなお母さんに毒されてる……!!

 みんなはよくても私はイヤだ! 魚なんて今すぐ方舟から出してしまいたい! 
 でも、そしたら朱音ちゃんの笑顔が曇って……ああああ!!


「ん? これで荷物はもう全部なんかい? んじゃあそろそろ出発の時間だから、別れの挨拶(あいさつ)をするなら早く済ませちまいな」

「!」


 魚を置いていくか否かで葛藤していた私だが、天狗のおじさんの言葉にハッとお母さんを見た。

 タンクトップに短パンを履いて、紫色の髪を高くひとつに結んだその姿。

 帰省してからは毎日飽きるほど見ていたのに、いざ離れるとなると途方もなく寂しく感じるのは、何故だろう?
 私はお母さんの姿をしっかりと目に焼き付けてから、口を開いた。


「じゃあお母さん、またしばらく留守にするけど元気でね。部屋はちゃんと掃除するんだよ」

「う゛。まぁ、努力はするわ。まふゆこそ体には気をつけて頑張んなさい。それに今年の体育祭にはわたしも応援に行くから、また秋には会えるわよ」

「へっ!?」