「わぁ……!」
「キレー!」
みんなが言葉を忘れて花火に見惚れる。
こうしていると、ティダに来てから起こった色んな出来事が走馬灯のように頭を駆け巡っていく。
最初はみんなが押し掛けてきてどうなることかと思ったけど、カイリちゃんとも仲良くなれたし、結果的には最高の夏休みになった。
九条くんの病気。それにお母さんの秘密。
まだまだ解決していないことは多いけど、それでもなんとかなるって思うのは楽観的過ぎるかな?
……でも、みんなで力を合わせればきっと何があっても大丈夫って、今はそう思えるんだ。
「ありがとう、まふゆ」
「――え?」
唐突に聞こえた言葉に思わず隣を見やれば、九条くんが驚いたように私を見た。
どうやら花火の音で聞こえないと思って、無意識に声に出たらしい。九条くんは言い淀みながらも、お礼の真意を教えてくれた。
「ティダに来て、俺は初めて外の世界を見れた気がするんだ。だからこの旅行を一生の思い出にしようって思ったら、無意識に声が……」
「……」
そう言う九条くんの声はとても穏やかだ。
しかしなんだかその言葉に言い知れぬ引っ掛かりを感じて、私はそっと手を伸ばす。
――そっと、九条くんの頬へ。
「い゛っ!?」
「何!? 一生って!! まさかティダに一回来たくらいで、全部を知った気でいる訳!?」
「いや、そういう意味じゃ……」
睨みながら九条くんの頬っぺたをぐいぐいと引っ張れば、痛みからか苦しそうな声が上がる。
「一生なんかじゃないよ! 思い出っていうのは、積み重ねるほど楽しいことが増えていくの! 来年はもっと楽しくなる! だから一生とか、言わないでよ……」
「まふゆ……」
「……」
頬っぺたを引っ張っていた手はいつの間にか九条くんに取られ、彼の大きな手に包まれていた。
雪女には熱すぎるくらい温かい手。
その温もりに、私の涙腺はまたじんわりと緩んでいく。
「そうだね。ごめん、一生なんてもう言わない。これからも楽しいことはたくさんあるんだもんね」
「そうだよ。夏休みが終わっても、3年生になっても。卒業したって――」
「うん」
頷く九条くんの表情は暗くてよく見えず、それが余計に私の中の不安を駆り立てる。
――でも、それでも何があっても絶対に離さない。
そんな思いを込めて、私は九条くんの手をぎゅっと握り返した。