「わぁ! お二人とも浴衣姿カッコいーー!」

「へぇ、なかなか様になってるじゃないか。さすがわたしの見立て」

「へへん、当然だろ! なんたってオレは日ノ本帝国の貴族男子だからな! 和装を着こなすぐらい訳ないっての!」

「とか言って雷護(らいご)、着付けが分からなくてほとんど九条様にやってもらった癖に」

「なっ……!?」


 部屋に入って来たのは、お察しの通りの夜鳥くんと雨美くんだった。
 だがしかし、その身にまとう衣装がいつもとは違う。それぞれにお母さんが用意した浴衣を着ているのである。


「んだよ! 水輝(みずき)なんか浴衣の丈が長いとか言って、(すそ)上げしてたじゃねーか!」

「あ゛? それ今ここで言う必要あんのか?」


 その凛とした着こなしは、確かにさすが貴族である。しかし入って来るなり、いきなりケンカは止めてほしい。
 そんな私の思いが通じたのか、二人の後ろからお馴染みのゆる〜い声が上がった。


「まあまあ二人とも。ケンカはそこまでにして、前を見てくださいよ。やっぱり女性陣の浴衣姿は華やかでいいですねー」


 こちらもまた浴衣姿の木綿先生がそう言いながら、睨み合う夜鳥くんと雨美くんをベリッと引き剥がす。

 ん? ……というか、あれ?


「三人だけ? 九条くんは?」

「あー……」


 私がそう問いかければ、夜鳥くんがバツの悪そうな顔をする。
 その表情を横目で見た雨美くんが、夜鳥くんの代わりに私の質問に答えてくれた。


「ついさっきまで雷護の着付けをやってたから、まだ着替えてるとこなんだよ」

「僕達は先に雪守さん達のところへ行くよう言われましたが、きっともうそろそろ……あ」

「どうしたんだい、入り口に溜まって。まふゆ達はもう着替えて……」

「あ」


 噂をすればなんとやら。

 廊下がギシリと軋む音がしたかと思うと、九条くんが木綿先生達の後ろからスッとこちらに顔を出した。
 その表情はいつもと変わらず涼しげで、けれど常とは違う姿に私の心臓がドキリと音を立てた。