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空いっぱいに広がる満天の星々を海面に映す海は、朝とは打って変わってとても穏やかだ。
その真ん中に架かる粗末な桟橋を、ギシギシと音を立てながら私と九条くんは歩いて行く。
そして橋をすべて渡り切った瞬間、突如広がった光景に私達はポカンと目を瞬かせた。
「森が……消えている」
「ウソ……、橋を渡り切るまでは確かにあった筈なのに……」
そうなのである。
以前肝試しをした際に散々私達を苦しめた、あの鬱蒼と生い茂っていた木々が、ソックリそのまま忽然と消えていたのである。
存在するのは広大な野っ原と、遠くまで続く一本道だけ。まるで狐につままれたような気分だが、肝心の狐は私の隣で同じようにポカンとしている。
『しかし、アンタらもわざわざこんな場所で肝試しなんて変わってるな。道は一本道で単調な上に、ずーっと入り江まで野っ原が広がってるだけで、全く肝試しにならないだろーに』
野っ原に一本道。
その光景はまさに、以前カイリちゃんの言っていた言葉と重なる。
「どうして急に森が消えたんだろう? というか消えてないの? 遠くからは森があるように見えたよね??」
「うーん、……これはあくまでも俺の仮説だけど」
首を傾げた私に九条くんがそう前置きして、話し出す。
「このザンの森一帯には、海神の妖術が掛けられているのかも知れない」
「え、森に? それは一体何の為?」
「多分この森に住まう、彼の家族を守る為……じゃないかな」
「家族って……カイリちゃん達のこと?」
海神様が去り際に、カイリちゃんのことを〝孫〟と言ったことは記憶に新しい。
「恐らく海神は、妖術を使うことによってこの地を森に見立て、魚住さんと彼女の母の正体が周囲に広まらないようにしていたんだと思う」
人魚が陸に上がるのはとても珍しい。親子の秘密が周囲に広まれば、彼らの穏やかな暮らしは脅かされてしまう。
だからザンの森を不気味に見せかけ、人が近寄らないようにした。
そして万が一森の中へ入ったとしても、決して彼らの住まう入り江には辿り着けないようにした――。
「……ちょっと待って! それならひとつ、不思議なことがあるよ。あの時なんで私達は、入り江に行けた訳?」
そう、あの肝試しの夜、聞こえた歌声に導かれるようにして、私達は決して行けない筈の入り江に辿り着いた。
その歌声の主こそがカイリちゃんだった訳だけど、九条くんの仮説が正しいとしたら、そもそも彼女の声が聞こえてきたこと自体がおかしい。
そんな私の言葉に、固かった九条くんの表情がふわりと緩み、こちらを見て微笑んだ。
「それはまふゆ、きっと君だったからだよ」
「へ、私……?」
予想もしていなかったことを言われ、私はキョトンとする。
