「〝なんでここに?〟って顔してるね。君、みんなが寝静まるのを待つかのようにずっと不自然にソワソワしてただろ? そんなの見てたら、そりゃあ何かあると思うよ。まふゆの行動は分かりやすいんだから」

「う……」


 度々指摘されてはいるが、まさかそこまで一部始終筒抜けなものなんだろうか?
 でも確かにソワソワしてた自覚はあるので、呆れたような視線にグウの音も出ない。


「――ほら」

「え……?」


 と、そこで押し黙った私を見つめていた九条くんが、おもむろに目の前に手を差し出してくる。


彼女(・・)のところに行くんだろ? だったらザンの森を通り抜けなきゃならないけど、こんな深夜にまふゆは一人で行けるのかい?」

「! そりゃもちろん、行け……」


 ……る。とは即答出来なかった。

 なにせあのザンの森なのだ。前に訪れた際に味わった不気味さだけでもうお腹いっぱいである。
 正直言って九条くんが一緒に来てくれるのなら、これほど心強いことはない。

 でもそうなると、またもや九条くんと二人きりになってしまう訳で――、……っ!?


「ほら、行くなら早く行こう」

「え、あ」


 まごまごとなかなか手を出さない私に焦れたのか、九条くんが強引に私の手を取って歩き出す。
 その勢いに顔が赤くなったり青くなったりしながらも、結局振り解くことも出来ず、私は九条くんに手を引かれるがまま着いて行くしかなかった。


「…………」


 動きに合わせて揺れる九条くんの銀色の髪を見ながら、私は考える。
 さっき九条くんは、私の行動は分かりやすいと言った。ならば今から私がすること(・・・・・・)も、きっとお見通しなんだろう。


「……ごめん」


 ポツリと呟けば、九条くんの足がピタリと止まり、ゆっくりとこちらを振り返った。


「――いいよ、それがまふゆなんだから」


 振り返った九条くんが、そう言って困ったように微笑む。
 そして大丈夫と言うように、ぎゅっと繋いだ手に力が込められた。


「うん、ありがとう」
 

 小さく呟いた言葉は、しかしちゃんと九条くんに届いていたみたいで、答える代わりにまたぎゅっと手に力が込められた――。