「父さーーんっ!!!」


 迫り来る竜巻。
 それにカイリちゃんが叫んで、魚住さんに手を伸ばす。


 ――その瞬間だった。


 あれほど激しかった雨も、殴りつけるような風も、そして唸るように迫って来た竜巻も、全てが一瞬にしてピタリと止んだのだ。

 ……いや、止んだんじゃない。

 跳ね返したんだ(・・・・・・・)

 それをハッキリ認識した時、海に何かがドーンッと跳ね返される音と共に凄まじい水飛沫(しぶき)がこちらまで飛んで来る。


「い、今のって……」

「うん。間違いないよ」


 飛沫に打たれながら呟く私に、朱音ちゃんが頷いた。


「カイリちゃん、妖力をコントロール出来たんだね」

「コントロール……? あたし、父さんを守りたいって思ったら、自分の意思であの力を出せた……?」


 朱音ちゃんの言葉に、カイリちゃんは自身の手を見つめて呆然としている。

 すると……、

 
「うむ。よくぞやり遂げた」

「!?」


 またも耳に届いた海神様の声に、私達は慌てて身構える。
 しかし先ほどまでの重苦しい妖力は既になく、次には驚くほど柔らかな声が私達の耳に響いた。


「今し方の非礼、どうか許してほしい。実はカイリが以前のように(・・・・・・)半妖の力を自分のものと出来るよう、一芝居打たせてもらったのだ」

「ひ、一芝居……?」

「それに〝以前のように〟って……」


 まるで以前は使いこなせていたと言うような口振りに、みんなが首を傾げる。


「? よく分かんないけど、つまりアンタは最初っから、あたしを海に連れてく気はなかったってことか?」

「いかにも。そもそも半分人魚の血を受け継いでおるとは言え、17年間陸で暮らしてきたのだ。お主は既に陸の者。今更泳ぐことも出来ない者が海で暮らせる訳がないであろう」

「ぐっ……!」


 痛いところを突かれたのか、その言葉にカイリちゃんが顔を歪めた。

 そうだね、カイリちゃんカナヅチだもんね……。

 でもそんなことまで知っているなんて、一体海神様はいつからカイリちゃんの存在を知っていたんだろう?