「はっ……!?」

「ええっ!?」


 予想外の言葉にカイリちゃんだけではなく、私達も驚いて目を見開いた。
 その中で海神様だけは淡々と話し続ける。


「本来人魚一族の者は皆、海底にて暮らすのが掟。それは半妖であっても同じこと。(そむ)く者には相応の罰が与えられる」

「…………」


 つまり海神様はカイリちゃんの願いを叶えに来たのではなく、彼女を海へ連れて行く為に現れたということだろうか? 

 それが人魚一族の掟だから。

 でも、そんなの……。


「……ひとつ聞きたい」

「なんだ?」


 海神様の言葉に顔を俯かせたカイリちゃんがスッと顔を上げ、真っ直ぐに海へと視線を向ける。


「もしあたしがアンタに着いて海に行ったとしたら、そん時はあたしの願いを……母さんに会わせてくれるのか?」

「!? カイリちゃんっ!?」


 まさか着いて行く気!?
 とっさにダメだと言おうとした私の声は、しかしより大きな声によって遮られてしまった。


「カイリは渡さないべ!!!」

「……っ、父さんっ!?」


 カイリちゃんを覆い隠すように彼女の前に立った魚住さんが、姿の見えない存在を睨みつけるようにして叫ぶ。


「海神様! カイリは貴方(あなた)にとっても同胞かも知れねぇが、オラにとっては唯一の娘……! オラにはどんな罰を与えてくださってもいい! だけどカイリは……、カイリだけは連れてかねぇでくれ!!」

「父さん……」


 魚住さんの必死の叫びに、カイリちゃんが息を呑んで目の前に立つ魚住さんを見つめる。


「――ふむ」


 すると海神様が思案するような声を上げた。


「自ら罰を所望するとは、随分と奇特な人間だ。ならばお望み通り、罰を与えるとしよう」

「!?」


 海神様の言葉が耳に届いた瞬間、周囲を渦巻いていた妖力が更に重苦しいものへと変わる。
 その圧倒的なプレッシャーに、私達の背筋が震えた。


「うっ、すごい妖力……!!」

「これが海神様の力なの!?」

「みんな、警戒するんだ! ……何か来る!!」


 九条くんが叫ぶのと、海上から海水を巻き上げながら巨大な竜巻が発生したのは同時だった。
 そしてその竜巻は真っ直ぐに私達……いや、魚住さん目掛けて猛スピードで迫り来る。


「きゃあ!? あんなの、この前の木綿先生の比じゃないよ!!」

「っ! 全員で魚住さんを守れ!!」

「クソッ! どんな妖術も弾かれちまう!」

「魚住さんっ!!」


 みんなが必死で竜巻に妖術で対抗するが、海神様の力の前にはなす術がない。

 そして――……!