「あくまで保険のつもりだったんだけど、まさかこんな形で役立つとはね。まふゆが海に落ちてすぐに術の発動を試みたんだけど、なかなか君の元へ飛べなくて焦った。……本当に、無事でよかったよ」
「そ、そっか。……ごめん、心配かけて」
マーキング付きのネックレスをプレゼントとは何事か!? と喉まで出かかったが、元はと言えば私の向こう見ずな行動が原因なので、素直に謝るしかない。
言葉を交わす間も九条くんは私を抱きしめたまま、開放してくれる様子はない。更についでに言うと、九つの尾はゆらゆらと揺れている。
それに嬉しいような恥ずかしいような、そんなむず痒い気持ちを抱えつつ、とりあえず九条くんの気の済むまでこのまま大人しくしてよう。
……そう思った瞬間、すぐさま私は前言撤回したくなった。
「――ねぇ、イチャついてるとこ悪いけど、あたしにも分かるように状況を説明してほしいんだけど」
「!!」
横から聞こえたカイリちゃんの声に、私はハッと彼女の方を振り向く。
そうだ!! カイリちゃんが居たんだった!!
見ればカイリちゃんの視線のなんと生暖かいことか!!
「~~~~っ!」
あまりの羞恥に耐えきれず、九条くんの腕から逃れようと今度は全力で藻掻くが、力が強くて振り解けない……! クソッ! 馬鹿力めっ!!
「あ、あのね、カイリちゃん! これは別にイチャついているんじゃ……!」
「俺の妖術で船着き場まで一瞬で移動出来る。厄介なことが起きたから、二人とも急いで戻ってほしい」
「なるほど。けど厄介なことって、なんだよ?」
私の必死の反論は、九条くんの声によって掻き消されてしまう。
しかもカイリちゃんまで私をスルーして、話進めちゃってるし!!
「まふゆ達が高波に流された後、海面から海神を名乗る存在が現れた」
「ちょっとちょっと! 二人とも……えっ?」
私を無視するなと言おうとして、しかし思いがけない言葉に、私とカイリちゃんが揃って目を見開く。
すると九条くんがようやく私の体を解放し、おもむろにこちらに向かって手を差し出してきた。