「カイリちゃん、準備はいい?」

「ああ」


 私の言葉に、玄関で靴を履いていたカイリちゃんが頷く。

 あれからカイリちゃんが落ち着くのを待って、私達はみんながいる船着き場まで戻ることにした。
 ここから悪天候の中を歩いて行くのは少々骨であるが、みんなへの連絡手段もない以上、そこはもう致し方ない。


「よし、行こっか」


 カイリちゃんが靴を履き終えたのを見計らって、私は玄関の扉を開く。


 ――その時だった。


「まふゆっ!!!」

「ひぇっ!?」


 突然目の前に白銀の耳と九つの尾が飛び込んで来たかと思うと、私の顔を見るなり思い切り抱きしめられたのだ。


「は、え??」


 見覚えのあるモフモフ……じゃなく姿。
 これは以前、九条の屋敷で見た妖狐姿の九条くんだ……!!

 えっ!? なんで九条くんがここにっ!!?


「く、くくく九条く……!?」

「まふゆ、はぁ……、無事でよかった……」

「え、えと……」


 九条くんのずぶ濡れの体が密着して、ようやく乾いた私の体をも濡らしていく。
 それに腕から抜け出そうと身じろいでいたのだが、九条くんの心底ホッとしたような声を聞いてしまい、私の体は石のように固まった。

 な、なんだよズルいな。そんな言い方されたら抵抗出来なくなるじゃないか……。

 とりあえず状況を整理したい。私は顔を上げて九条くんに問いかける。


「なんで九条くんがここにいるの? 偶然……じゃないよね?」

「もちろん。そのまふゆにあげたホタル石のネックレスのお蔭さ。実は石に俺のマーキングを仕込んでおいたんだ」

「石にって……、へぇっ!!?」


 予想外の返答に、思わず叫んで九条くんを凝視する。

 マ、マーキング? マーキングって、あの妖狐一族の秘術だという、一度マーキングした場所にはどこへでも飛べるという、あの……!?