「父さんの船をダメにした上に、助けてくれた蛟を傷つけた。アンタだって海に飛び込んで死にかけて。……ごめん、謝って許されることじゃないのは分かってるけど……」
「カイリちゃん……」
表情こそ見えないが、その震えた声色から彼女が今どんな表情をしているのかは容易に想像がついた。
なんと言葉を掛けようか考えあぐねていると、それをどう受け取ったのか、カイリちゃんが声を低くして呟く。
「やっぱり母さんの時と一緒だ」
「え?」
「あたしはいつも誰かを傷つけて不幸にする」
「…………」
「あたしなんか、海に沈んでしまえばよかっ……」
「それは違うよっ!!」
聞き捨てならない言葉に思わず強く反論すると、布団で出来た小山がビクリと震える。
そのあまりにも痛々しい姿が、私の中の懐かしい記憶を呼び起こす。
――ああ、そうか。
お母さんがカイリちゃんに私の正体を明かすよう促した理由が、今なんとなく分かった。
カイリちゃんは似てるんだ。
自分自身の存在に負い目を感じ、何でも自分で解決しようと一人で空回ってた頃の私に。
『へぇー。やっぱり雪守さんって、なんでも要領よくこなすよね』
『なんかいつも澄ましてて、余裕っていうか』
違う。本当はそうじゃない。
本当は私だって頼りたい。でも……頼れない。
私は嘘をついているから。今みんなに見せている私は、私じゃないから。
そう自分に言い訳して、ずっとずっと殻に閉じこもってた。
あの頃の私に――……。
「怒鳴ってごめんね。でも、ひとつだけ言わせて」
「…………」
私に対し、カイリちゃんは何も言わない。
それを話してもよいのだと受け取って、私は話を続ける。
「海に飛び込んだのは私の意思。だからカイリちゃんに傷つけられたとは思ってないし、ましてや不幸になったとも思わない。これは他のみんなも一緒だと思う」
「!」
「それに取り返しのつかないことをしたのは、私も同じだよ。私が雪女であることを始めから明かしていれば、カイリちゃんが海に行くこともなかったのに……」
「そういえば、アンタさっき……」
