◇
「お邪魔しまーす……」
なんとか赤瓦の家に到着し、念の為そう声を掛けてから玄関へと足を踏み入れた。
恐らく魚住さんはかなり慌てて家を出たのだろう。玄関扉が開け放たれたままになっている。
「よいしょ……と」
カイリちゃんを家の中に運び入れた後、見つけたタオルを拝借して、ずぶ濡れになってしまった彼女の顔や髪を拭いていく。
そしてこれまた慌てていたのだろう。部屋に敷きっぱなしの布団があったので、これ幸いとそこにカイリちゃんをそっと寝かせた。
「はぁーー……」
首をゴキゴキ鳴らす。
疲れた。さながら大仕事を終えた気分だ。
一息ついて、自分の髪と体もタオルで拭く。
こういう時、火の妖力があればすぐに体を乾かせて便利だろうなぁ……なんて思うが、私は火の妖力は苦手なのでどっちにしろ無理だった。
「――――ん?」
とそこで、机の上に写真立てが置かれていることに気づいた。
そっと覗き込めば、活発そうな水色髪の女の子を真ん中にして、左に麦わら帽子を被った優しそうな男性。そして右には水色のロングヘアの綺麗な女性が微笑んでいる。
もしかしなくても、これは……。
「真ん中の女の子が小さい頃のカイリちゃん? じゃあ男性が魚住さんで、そしてこの綺麗な女の人が――」
「っはぁ……はぁ……」
「! カイリちゃん!?」
写真に見入っていると、布団で眠るカイリちゃんが辛そうな声を発し、私は慌てて彼女に駆け寄る。
「……母さ……ごめ……」
すると悪夢に魘されているのか、カイリちゃんは苦悶の表情を浮かべて、うわ言を呟いている。
「カイリちゃん! カイリちゃん! しっかりして!!」
「っ……うぅ……」
「!? 熱っ!!」
彼女の体に触れた手を慌てて引っ込める。どうやら熱も上がってきたようだ。
その苦しげに呼吸する姿は、どこか九条くんと重なる。
「かあ……母さ、……っ……」
「カイリちゃん……」
どうしよう。カイリちゃんがこんなに苦しんでるのに私は何も出来ず、ただ見ていることしか出来ないの…?
何か、何か彼女を助ける方法は――……。