もう一度注意深く辺りを見回す。
 大雨で景色は様変わりしているが、……間違いない。
 ここはザンの森の最奥――人魚姿のカイリちゃんと初めて出会ったあの入り江だ!

 船着き場から〝人魚の流れ着く場所〟と呼ばれるこの森までカイリちゃんと一緒に流されていたとは。
 どこか因果めいたものを感じるが、それにしても大荒れの海に投げ出されて無傷で助かったのだ。先ほどに続き、本当に運が良い。


「ぅ……、っ……」

「……カイリちゃん?」


 微かにカイリちゃんが苦しげな声を上げ、私は視線をお墓から彼女に戻す。
 すると意識を失っている体は完全に冷え切っており、呼吸は酷く荒く苦しげで、このまま激しい雨に打たれ続けるのは危険だった。


「どうしよう……」


 一刻も早くどこか屋根のある場所で休ませてあげたいが、ここは人の寄りつかないザンの森だ。

 民家なんてどこにも……。


「――――っ!!」


 そこまで考えて、ハッと思い出す。


『肝試しぃ? あたしはここに住んでんだよ。ほら、あの家』

「!! そうだ!! カイリちゃんの家!!」


 カイリちゃんはあの時確かにこの森に住んでいると言っていたではないか!

 彼女があの時指を差していた方向を見やれば、視界が悪い中でも赤瓦の屋根が微かに見え隠れしているのが見えた。


「よしっ!! カイリちゃん、すぐに家に着くから頑張って!!」


 私は意識のないカイリちゃんに声を掛け、励ましながら彼女の肩に腕を回して、赤瓦の屋根を目指して歩き出した。