「――――――?」


 ……あれ? 私、どうしたんだっけ?

 あ、そうだ、確か高波に呑まれて……。


「……?」


 キョロキョロと辺りを見回せば、あの時離れないようにと固く抱きしめた筈のカイリちゃんの姿がどこにも見当たらない。
 それどころかどこもかしこも見渡す限り、真っ暗な闇が広がっている。


 ……え、もしかして私、死んじゃった?


「~~~~っ!?」


 頭に浮かんだ恐ろしい想像に、サーっと血の気が引くのを感じた。

 イヤ! イヤイヤイヤ! そんなのイヤだっ!! まだ死にたくなんかないっ!!

 もっともっとみんなと一緒にいたいし、カイリちゃんのことだってまだ助けられてない!!

 お母さんが本当のことを話してくれるって約束だって、まだ叶えられてないじゃない!!


「…………」


 ――それに、


『だったら無理に聞き出したりはしない。でも君が話したいタイミングで、いつか話してほしい。前にも言った通り、俺はいつだってまふゆに頼ってほしいと思っているんだから』

『……うん、きっといつか言う。絶対に』


 まだ、私は九条くんに何も伝えられてない。

 好きって伝えられないまま死んじゃうなんて、絶対にイヤだ……!! イヤだよ!!

 だから私はまだここで死ぬ訳にはいかないっ!! 生き延びる!! 絶対に!!!

 
「……ふむ。それがお主の願いか?」

「!?」


 唐突に誰かの声がして、私はビクリと身構える。
 しかしキョロキョロと辺りを見回すが、人らしき影は見当たらない。

 え? 気のせい……?


「……その願い、聞き届けよう」

「!!」


 じゃない!! また声が……!!

 そう思ったら、今度は暗闇の中からぼぅっと人影が浮かび上がってきた。


「――――?」


 現れたのは、長い髪をゆるりと一つに束ねた、まだ若い青年のような、けれど壮年にも老人にも見える不思議な男性。
 その髪色はどこかカイリちゃんを彷彿(ほうふつ)とさせる水色だ。そして彼の腰からすんなりと伸びる美しい水色のヒレも。


 ……誰?


 そう問いかけると、男性は淡く微笑んで口を開く。

 きっと名乗ってくれたのだろう。
 なのに結局私は上手く聞き取れないまま、今度こそ完全に意識が途切れた。