「なんだべ?」

「彼女は人魚の半妖ですよね? なら荒れた海では操作しにくい船を使うよりも、泳いだ方が効率的な気がするのですが、何故あえて彼女は船に乗ったのでしょう……?」

「あ」


 確かに言われてみれば、その通りだ。人魚は(みずち)と同様、泳ぎは得意中の得意。しかも普段から海底に住んでいる人魚の方が地の利もある。
 もちろん陸育ちのカイリちゃんには当てはまらないが、それでも泳ぎが得意であることは間違いないだろう。

 しかしそれを聞いた魚住さんは、眉を下げて首を横に振った。


「……いんや、カイリが泳いで海を移動するのは無理だべ」

「? それは何故です?」


 私が首を傾げると、魚住さんはとても言いにくそうにボソリと呟いた。


「……あの子は……、カイリは……その、カナヅチ(・・・・)だから……」

「は……」

「カナヅチって……」

「はあぁっ!?」

「人魚なのにカナヅチィィ!!?」


 思いもよらない答えに全員が素っ頓狂な声を上げる。

 そしてそれと時を同じくして、上空からもとびきり大きな声が響いた。


「いましたぁっ!! あの水色のショートヘア、間違いなくカイリさんです!! 釣り船に乗っているようです!!」

「!!」


 声の主は、空からカイリちゃんを探していた木綿先生。
 私達からは何も見えないが、先生はカイリちゃんの姿を捉えたらしい。今度は海に向かって叫ぶ。


「船着き場から2時の方角を10キロです、雨美くんっ!!」

「了解!」


 先生の声を受けて、青い鱗をツヤツヤと輝かせた蛟姿の雨美くんが、ものすごい勢いで荒海を一直線に突っ切っていく。

 これが泳ぎの名手、蛟の力……!!


「すごいっ!! 荒れた海をものともしてないよ!!」

「行けーーっ!! 水輝(みずき)ーーっ!!」 

「!? 待って、波が……!!」


 ゴロゴロと激しい稲光と共に、荒れ狂った海に一際巨大な波が発生する。
 そしてそのまま雨美くんを、更にその先にいるであろう、船に乗ったカイリちゃんをも呑み込もうと襲いかかった。


「雨美くんっ!! カイリちゃんっ!!」

「カイリーーッ!!!」

「まふゆ、魚住さんも!! もっと波打ち際から離れて!!」


 九条くんの鋭い声が聞こえた瞬間、高波が船着き場に激しく叩きつけられて、周囲に鋭い飛沫(しぶき)が弾け飛んだ。