「今までカイリが海神の話なんてしたこと無かったから、不思議に思ってなぁ。そん時はただの言い伝えだと返したんだべが、まさかカイリのヤツ……」
「ええ。今日は〝海神の御成〟……。海神が最も陸に近づく日。本気で海神に会いに海へ出た……。その可能性が高いわね」
「……ま、待ってよ! カイリちゃんにはそんな無茶をしてまで、海神様に会わなきゃならない理由なんか……!」
お母さんの言葉に反論しかけて、ハッと気づく。
――そうだ、あるじゃないか。カイリちゃんには何よりも叶えたい願いが。
『……死ぬ時に、母さんが言ったんだ。ティダに雪が降ったらまた母さんと会えるって』
カイリちゃんは亡くなったお母さんに会いたくて、氷の妖力をもつ妖怪を探してた。
初対面の私にまで頼み込むくらい、必死に。
――でも、もしその願いが海神様によって叶えられてしまうのなら……?
浮かんだ答えは、ひとつしかなかった。
「――――っ!」
居ても立っても居られず、私は外に飛び出そうと足を踏み出す。
しかしその瞬間、誰かが私の腕をグッと強くと掴み、外に出ることは叶わなかった。
「あ……」
「この荒天の中、どこに行くつもり?」
振り返れば九条くんが真剣な顔でそう問いかけてくる。
彼のまとう重苦しいまでの妖気に思わず怯むが、それでも震える唇を叱咤して私は叫んだ。
「そんなの決まってるじゃないっ!! 早くカイリちゃんを連れ戻さなきゃ!!」
「闇雲に突っ込んだところで、彼女共々海の藻屑だよ。ちゃんとどう捜索するか考えないと」
「……っ」
九条くんの言葉に私は唇を噛む。
確かに九条くんの言うことは間違ってない。今は冷静になる時なんだろう。
でも……っ!!
「考えてる内に、カイリちゃんに何かあったらどうするの!? とにかく一刻も早く探さなきゃ!! ……だって、カイリちゃんが海に行ったのは、私のせいなんだから!!」
「まふゆ」
「魚住さん、ごめんなさい。私がカイリちゃんに海神様の話をしたんです。カイリちゃんが人魚の半妖だって聞いて、もしかしたら海神様に会ったことがあるのかなって、軽い気持ちで……」
私はそう言って、カイリちゃんのお父さん――魚住さんに頭を下げる。
すると魚住さんは驚いたように息を呑み、けれど次には穏やかな声が頭上に降ってきた。
