雪女ですがクラスのイケメン妖狐の癒し係になりました



「待って、言えないのは分かった。じゃあ全部答えなくていいから、ひとつだけ聞かせて」

「何? 話せる範囲でなら答えるけど」


 私も真剣な表情でお母さんを見つめ、ひとつ深呼吸する。
 改まって聞くことに酷く緊張するが、これだけはどうしても知りたかった。


「……お母さんから妖力を感じない理由は何?」

「え……」

「もしかしてお母さんは雪女じゃなくて、本当は――……」


 その先を言うのが怖い。
 震える唇からなんとか声を絞り出そうとするが上手くいかない。

 更に私の言葉にお母さんの驚いた表情が目に入って、それを見たくなくてぎゅっと目をつぶる。

 すると次の瞬間、ふわりと体全体が柔らかいものに包まれるのを感じた。


「……?」


 それに閉じた瞳をそっと開けば、お母さんに抱きしめられていることに気づく。


「おか……」

「バカね、いつから気にしてたの? わたしがもし雪女じゃなく人間だったら、雪女の半妖であるアンタの母親は誰なんだろう……とでも考えてた?」

「……っ!」


 図星を指されて固まった私の耳に、カラカラとお母さんの笑い声が響く。


「本当にバカな子ね。こんなにわたしと瓜二つで、髪と目の色もおんなじなのに」


 バカと言いながらも、私を抱きしめる手はとても優しい。

 それに幼い頃、嫌なことがある度にこうやってお母さんに抱きしめられたことを思い出し、知らず涙腺が潤んでいく。


「まふゆ、わたしが雪女であることは間違いないわ。ただし、()が付くけれどね」

「……? それってどういう……」


 意味が分からず顔を上げれば、お母さんはどこか遠いところを見て懐かしむような表情をしていた。


「お腹にまふゆが宿った時、妖怪であることを隠して生活する必要があった。だから妖力も妖怪であることも、全部捨てたの」

「捨てたって……」


 妖力ってそんな気軽に捨てられるものなのだろうか? というか、捨てようとして捨てられるものなのか?
 
 疑問は尽きないが、何よりも〝雪女である〟という自分自身の根幹を捨てたとお母さんは言ったのだ。他ならぬ私の為に。


 ……後悔は無いのだろうか?


「無いよ。後悔なんて一度だってしたこと無い。だって一番の宝物が、こうして元気に育ってくれたんだから」


 そう言い切ったお母さんの表情は、言葉通り晴れ晴れとしている。
 まだまだ聞きたいことだらけだし、謎は更に深まるばかり。

 ――だけど、今はその言葉だけで十分だった。