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「あーら、みんなおかえりー! ティダの海は存分に楽しめたかしら?」
「あ、はい。お陰様で」
「スイカありがとうございました。美味しかったです」
「喜んで貰えたならよかったわ。あのスイカはお得意さんがくれてねー」
今見た光景に動揺を隠せない私達に対して、お母さんはまるで何事もなかったかのようにのん気にスイカの話をしながら笑う。
その様子にまた私は苛立ちが募り、ついに堪え切れなくなって叫んだ。
「……っ、ちょっと!! お母さんっ!!」
「――まふゆ」
声を張り上げた私を止めるように、九条くんが私の肩に手を置く。
そしてそのまま私と視線を合わせて言った。
「夕飯の準備は俺達がしておくから、まふゆは風花さんとゆっくり話すといい」
「えっ……!?」
「そーそー。たまには親子水入らずで話せよな」
「せっかくの雪守さんの帰省でしたのに、僕達が泊まっているから、ずっと親子二人の時間が無かったですもんね」
「まふゆちゃん、夕食作りは安心して任せてね」
「カレーなら簡単だし、ボク達でも作れそうだしね」
「あ、ちょっ……!?」
九条くんの言葉に狼狽えた私に、口々にみんながそう声を掛けて先に家の中へと入っていく。
するとお母さんが「あっ」と声を上げた。
「だったらまふゆに言われて買ってきた材料は、台所にまとめて置いてあるから!」
すると「分かりましたー!」という元気な返事が返ってきて、そのままパタンと玄関扉が閉まり、それにお母さんがクスリと笑った。
「みんな騒がしいけど、いい子達だよね。まふゆ、アンタ日ノ本高校に入ってホントによかったね」
「う、うん……」
しみじみと呟くお母さんになんだかさっきまでの勢いが削がれ、私も素直に頷く。
そしてチラリと目線を空に移せば、太陽はもう沈みかけていた。私達以外誰も外にいないので、静寂に海の波打つ音がここまで響いてくる。
「…………」
困った。二人きりにはしてもらったものの、何から話していいのか分からない。
こんな改まった状況など今までになかったから、お母さん相手なのに妙に緊張してしまう。
「ふぅ……」
「!」
すると不意にお母さんが溜息をつき、それに私はビクリと肩を震わせる。
「……まふゆ、思えばアンタには我慢ばかりさせてきたね」
「え……? 何を突然……」
〝言い出すのか〟と続けようとするが、お母さんの表情が悲しげであることに気づき、私は開けた口をきゅっと閉ざした。