◇
「はー、遊んだ遊んだ」
「スイカ甘かったねー」
「つーかまだ塩水でベタついてる気がすんな。もう一回シャワー浴びてぇー」
海からの帰り道。相変わらず思い思いのことを言いつつ、私達は我が家へと向かう。
やはり夕飯時ということもあり、あちこちの家から漂ういい匂いに、みんなのお腹がぐぅと音を立てた。
「今日の夕ご飯は何かなぁー?」
「カレーだよ。お母さんに材料は買って来るように言ってあるから」
「やった! カレー!」
はしゃぐみんなに笑っていると、見慣れた我が家が見えてくる。
そうして家がもう間近に迫ったその時、目の前を歩く九条くんが急にピタリと足を止めたので、私は目を見開いてその背中を見上げた。
「……」
「? どうしたの、九条くん?」
「なんであの方がここに……」
「……え?」
呆然とした様子で呟く九条くんの言葉の意味が分からず、私はその背中からヒョイと顔を覗かせて家の前を見る。
するとそこに居たのは――。
「え、あれって……」
「おいおい、まさか……」
九条くんと同じように固まった私を見て、他のみんなも次々と家の前へと視線を向ける。
そして誰に言うでもなく、全員が同じことを呟いた。
「なんで、皇帝陛下がここに……」
――そう。
私達の視線の先に居たのは、お母さんと黒髪の壮年の男性。
その姿は以前お城で見かけた時のような豪華な衣装ではなく、一般市民と変わらないラフな服装をしている。
しかしどのような姿であろうと、その滲み出る圧倒的な存在感は見間違える筈がない。
黒髪の壮年の男性……いいや、日ノ本帝国皇帝陛下が、何故かお母さんと共に我が家の前に立っていたのだ。