去り際にも深々とお辞儀をしてくれたカイリちゃんのお父さんは、彼女と一緒に魚の入ったカゴを抱えて町の方へと歩いて行く。
それをぼんやりと見送っていれば、端で見ていた夜鳥くんがボソリと呟いた。
「娘は不愛想だけど、父親は丁寧な人じゃん」
「けどなんだか不思議なことを言ってたね。九条様を見たことがあるとかなんとか」
「はい。神琴様は初めてティダに来られたのに、どうして……」
「…………」
朱音ちゃん達の言葉になんと返していいか分からず、私はチラリと九条くんを伺う。
しかしその表情はいつもと変わらず涼しげで、なんの感情も読み取ることは出来ない。
でも……。
『不思議なんだ。ティダに来るのは本当に初めての筈なのに、この海を俺は前にも見たような気がする』
九条くんが何度も感じた既視感。
そして実際に彼と似た人物を見た気がするという証言。
総合すると、やっぱり九条くんは以前にもティダに……?
「ま、よく分かんねーけど、とにかく気を取り直してスイカ割りしよーぜ」
「だね。今度こそちゃんと割りたいし」
「えっ! また水輝がやんのかよ!?」
「もう僕を狙うのはナシですからねっ!」
「じゃあビーチに戻ろっか、まふゆちゃん」
「……うん」
賑やかな周囲に反し、黙り込んだままの九条くんを見つめて、私は朱音ちゃんに頷く。
――こうしていくつかの疑問を残しつつも、私達は日が暮れるまで思う存分、海での楽しいひと時を過ごした。
収まらない心の騒めきを、胸の奥で感じながら……。
