「せ、先生……」
砂浜に戻った私達を出迎えたのは、寝っ転がった体を砂で女体に固められた木綿先生であった。
その姿はさながら、西洋の宗教画に描かれた女神のよう。クオリティが無駄に高いのが、逆に恥ずかしい。
「うわぁぁん!! そんな不憫なものを見る目で見ないでくださいっ!! 雪守さぁぁん!!」
「えへへ、サンドアート楽しかった」
「そ、そっか……」
ツッコみたいのは山々だが、朱音ちゃんが楽しかったなら何も言うまい。
「ところでまふゆちゃんはどこに行って……、あ」
視線を先生から私に向けた朱音ちゃんは、私の後ろにいる九条くんを見て、何やらいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「あれ、二人で遊んでたの? まふゆちゃんの耳が赤いけど、もしかして何かあった?」
「え゛っ!?」
「朱音」
朱音ちゃんの言葉に、反射的に両耳に手をやる。
するとそれを見た九条くんが、咎めるように朱音ちゃんを軽く睨んだ。
「まふゆで遊ぶのはよせ」
「ごめんなさい、神琴様。慌てるまふゆちゃんが可愛くて、つい」
そう言ってペロリと舌を出す朱音ちゃんこそ、ちょっと小悪魔ちっくでとても可愛い。
でもまさか二人の会話を察するに、朱音ちゃんが私にカマを……?
「それよりもまふゆちゃん、わたしともボートに乗ろうよ!」
クイっと軽く私の手を引っ張り、くりくりの大きなチョコレート色の瞳でこちらを見上げてくる朱音ちゃん。
それを目にした瞬間、私の中で生まれた疑念は一瞬にして消え去った。
だってこんなにも可愛い朱音ちゃんが、私にカマを掛けるはずがない!
なんだただの思い過ごしか。
「おっ! お前らも海に出るのか? よっしゃあっ! ならオレの華麗な泳ぎ、とくと見せてやるぜ!!」
「は? バカなの?? 鵺の癖に、蛟であるボク以上に華麗な泳ぎが出来ると思ってるの?」
「何ィ!? じゃあ競争すっか!?」
「いいけど、泣きを見ても知らないからね?」
ボートに向かう私達の横から、夜鳥くんと雨美くんがバチバチと火花を散らしながら海へと歩いて行く。競争するのはいいが、準備運動はきちんと済ませたのだろうか?
そう思いながらもボートに乗り込むと、九条くんがオールを手に取った。
「ボートを出すなら、俺が漕ぐよ」
「ありがとう、九条くん」
「えへへ。ウミガメとかいないかなぁ?」
にこにこと嬉しそうな朱音ちゃんにほっこりしていると、ボートはゆっくりと動き出す。
しかし少しして、「はて?」と首を傾げた。
そういえば誰かを忘れているような……?
「ええーーっ!? みんなして僕を置いてどこに行っちゃうんですかぁーー!? 待ってぇーーっ!! サンドアートのまま置いていかないでぇーっっ!!!」
「あ」
この時の木綿先生の絶叫は、水平線の向こう側まで響き渡ったという。