「……え?」
唐突に何か柔らかいものが額を掠める感触がして、思わずパチっと目を開ける。
すると私を見下ろしていた筈の九条くんは、いつの間に起き上がったのか、私に背中を向けて海を眺めていた。
「??」
なに……? 今の感触……?
ボートに仰向けに倒れたままの体勢で、私は右手を上げてそっとおでこに触れる。
「まふゆ、あんまりボートの上で動いちゃ危ないからダメだよ」
「あ、う、うん! ごめんっ、気をつける!!」
背中を向けたままの九条くんにそう注意され、私は慌てて起き上がった。
そして海を見つめる九条くんのその後ろ姿をちらりと窺うが、見た感じはいつもと変わりない。
じゃあさっき額に感じた、柔らかな感触は一体――?
「げあぁぁぁぁぁーーっ!!!」
「!?」
と、そこで突然間の抜けた絶叫が砂浜から聞こえて、ハッとそちらへと視線を走らせる。
すると何やら砂で埋められていた木綿先生が騒いでいるのが見えた。
もしかして夜鳥くん達のサンドアートとやらが、完成したのだろうか?
「ああっ! せっかく作ったんだから動かないでくださいっ、木綿先生!」
「えええ!? じゃあ僕、ずっとこのままなんですかぁ~~!?」
「いいじゃん、そのまんまで。ていうか雪守ちゃんと九条様はどこに行ったんだろ?」
「あ? そういや見かけねぇな」
みんなの騒がしい声がここまで聞こえてくる。
どうやら私達がいないことに気がついたらしい。
ボートはもう十分過ぎるほど満喫したので、そろそろ戻った方がいい頃合いだろう。
「そろそろ戻ろうか」
「うん、そうだね」
同じことを考えていたのか、九条くんがそう言う。
それにこくんと頷けば、ボートはゆっくりと砂浜に向かって動き出した。
頬にあたる潮風が火照った体を冷ますようで気持ちいい。
ふぅと息をついて、オールを漕ぐ九条くんの背中を見つめる。
「……あ、」
オールを漕ぐ腕の隙間から微かに覗く、九条くんの横顔。
それが赤く染まっているように見えたのは気のせい? それとも……?