――落ちるっ!!
ぐらりとボートの外へと傾く体。とっさに目をつぶって海にダイブすることを覚悟する。
「……?」
だがしかし、いつまで経ってもその衝撃が訪れることはない。
不思議に思って、固く閉じた目をそっと開くと……。
「まふゆ、大丈夫?」
「へ……?」
目の前に飛び込んで来たのは、心配そうに私の顔を覗き込む九条くん。
眉を寄せるその表情すら、一枚の絵のように美しい。
そんな美しいご尊顔が、何故か私を真っ直ぐに見下ろしている。
「え???」
状況が飲み込めずに視線をウロウロと彷徨わせ、そして――。
「〜〜〜〜〜〜っっ!?!?」
状況を理解した瞬間、ボンッ!! と火山が爆発するかの如く、私の頭も噴火した。
な、なんでぇ!? どうして私ってば、九条くんに押し倒されてんの!?
冷静に考えれば、海に落ちかけた私を助けようとした拍子に偶然そんな体勢になったのだと分かるのだが、いかんせん今の私の思考力はゼロに等しい。
ひたすらこの状況に混乱し、顔を赤くするばかりだ。
「く……、く……、くじょ……く……」
「大丈夫、まふゆ?」
それでも足りない思考でなんとか九条くんと距離を取ろうと口を動かすが、あまりの動揺で唇が震えて上手く言葉に出来ない。
「……し……て」
「え、何?」
「……っ!」
〝体をどかして〟と言ったのが伝わらなかったのか、ますます九条くんが体を寄せて聞き返してくる。
なんでそうなるの~~ッ!!?
「まふゆ?」
「…………して」
「え?」
ひえぇぇぇぇ!! 近いっ!! 近いよぉぉぉ!!!
もはや息遣いまで聞こえそうな距離に、まさか私を揶揄う為にわざとやってるんじゃないのかと涙目になる。
すると九条くんは驚いたように目を見開いて、私を見下ろしたまま固まった。
……え、何?
そして何故かそのまま視線を逸らされることなく、体がより私に近づいてきて――……。
「~~~~っ!?」
ななななんでぇ!? 離れるどころか、もう肌と肌が触れ合いそうなんですけど!!?
恥ずかし過ぎて、もう九条くんを直視出来ない……!!
心臓が破裂しそうに高鳴って、思わずぎゅっと固く目をつぶった時だった。
――ふに。