「禁じられって……、じゃあ学校はどうしてたの?」
「屋敷に家庭教師を呼んでって、感じかな。だから旅行の類いは本当にしたことがない。だからもしあるとしたら……それは5歳以前の話だと思う」
「5歳?」
妙に具体的な年齢を出されて、私は首を傾げる。
しかしあのトンデモ当主。退学騒動を経て今更驚きもないが、いくら九条くんが病で臥せってることが多かったとしても、外に出ることまで禁じるのはやり過ぎじゃないだろうか?
九条くんを見ていれば、本来家に閉じこもるよりも外に出るのを好むタイプだと分かるだろうに……。
「でもなんで5歳?」
「俺は5歳以前の記憶がぽっかり無いんだ」
「え……」
それは本当に幼い頃なのだし、無くても無理もないような? でも丸々記憶が抜けてるっていうのは変か……。
特に禁じられている外に。
あまつさえ帝都から遥か離れたティダまで来てたのなら、その痛烈な記憶を丸ごと忘れてしまうのは確かに不自然だ。
「何故かな? こうしてここで潮風に吹かれていると、頭に色々な光景が浮かんでくるんだ。ソーキそばの店に体験工房。城の見学、それに海。全部まふゆ達と行った筈なのに、頭の中の俺は知らない大人と一緒で、俺はその人のことを――……、っごほ!」
「九条くん!!」
突然激しく咳込み始めた九条くんに、私は慌てて手に妖力を込めて彼の背中をさすった。
どれくらいそうしていただろう?
しばらくして少しずつ、彼の苦しげな呼吸音はいつもの穏やかなものへと戻っていく。
「はぁ……、……ごめん」
「もーっ! 謝るのは無しって、いつも言ってるのに!」
「……そうだったね。ありがとう、まふゆ」
ムッとした表情の私に、九条くんが淡く微笑む。どうやら完全に発作は落ち着いたみたいだ。
ひとまずホッとするが、しかしお城の時といい、やっぱり以前よりも発作を起こす頻度が増えている気がする……。
