九条くんに誘われ、ゴムボートに乗った私。
速すぎず遅すぎず。ちょうど良い速度で海をゆっくりと進んでいく。
「あ、スゴい! このボート、床が透明なってる!」
「そうなんだ。まるで海の上に座っているみたいだよね」
「うんっ!」
ボートの床を興味深く見つめれば、オールを漕いでくれている九条くんがクスリと笑う声が耳に届いて、ドキリと鼓動が跳ねた。
「潮風が気持ちいいね。海面に空が映って、まるで飛んでいるみたいだ」
「う……うん。そうだね」
潮風が九条くんの白銀の髪を涼しげに揺らす。
思わずその姿を凝視すれば、「あ」と九条くんが声を上げて、私の方へと体を動かした。
「まふゆ、あれ熱帯魚の群れだよ」
「えっ……? あっ、ホントだ!!」
九条くんの指差す方向には、確かに色とりどりの熱帯魚の群れが泳いでいるのが見えた。
その姿はとても可愛らしくて、心が癒されていくのを感じる。
けど……。
――近いっ!! 近過ぎるんですがっっ!!?
互いの顔がすぐ横に並んで頬が触れ合いそうな距離感に、心臓がバクバクと早鐘のように高鳴る。
「あ、見てまふゆ。あっちの群れ、黄色に青にピンクだ。まるで夜鳥と雨美と朱音みたいだね」
「あーホ、ホントだっ! 可愛いっ!!」
だ、だから近いってぇ〜〜っ!!!
二人きりで乗ることに頷いたのは私だけど、やっぱり九条くんの行動はいちいち凶器過ぎる……!
普通にって思うけど、〝普通〟ってどんなだっけ!? 私って、今まで九条くんにどんな風に接してた!?
「~~~~っ!!」
錯乱する頭がプスプスとオーバーヒートしかける。
――そんな時だった。
「ありがとう、まふゆ」
「えっ?」