「ちょっ、夜鳥くん!? 何先生に砂かけてんの!?」
私はギョッとして、いつの間にか居た夜鳥くんに悲鳴を上げる。
「いや何、ちょっとしたサンドアートにしてやろうと思ってな。木綿のヤツ、起きたらきっと泣いて喜ぶぞ」
そこは泣いて怒るの間違いではないだろうか?
こちらを向いた夜鳥くんがニヤリと悪い顔をして、ぐっすり眠る木綿先生の体にどんどんと砂をかけていく。
次から次へと、よくもまぁ。
このバイタリティだけは心底尊敬する。
「あ、面白そうだね。ボクもやろーと!」
「だったらわたしも! サンドアートって前から興味があったの!」
「あ、朱音ちゃんんん!!?」
雨美くんはともかく、まさかの朱音ちゃんまでが夜鳥くんと一緒に悪ノリとは。
ここしばらく生徒会の面々と過ごす内に、朱音ちゃんも少しずつ毒されてきたのかも知れない。
少々複雑ではあるが、弾けんばかりの笑顔で楽しそうに砂を木綿先生にかける姿を見せられれば、私には何も言うことは出来ない。
木綿先生。尊い犠牲だった。
それにしても海で泳ぐ為に来たのに、いきなりサンドアートでいいんかい、アンタ達……。
「だ、大丈夫かな……」
「朱音もいるし、無茶はしないさ。それよりもどうする? ボートを借りてきたけど、先に俺達で乗る?」
「!?」
完全に独り言のつもりだった呟きに返事をされて、私が慌てて振り返れば、九条くんが真後ろに立っている!
そしてその九条くんの後ろには小さなゴムボートが一艘……。
そ、そっか。居ないと思ったら、私が昨日乗りたいって言ったから海の家でわざわざボートを借りてきてくれたんだ。
で、でも、九条くんと二人きりでボートって……!
やっと落ち着いてきた心臓が、またバクバクと高鳴り始める。
以前までの私ならきっと、何も考えずに二つ返事で乗っていたに違いない。
でも今は違う。
気持ちを自覚した今、ちょっとした接触にも頭が真っ白になって、正直二人きりになった時にどんな態度でいればいいのかも、まだよく分からない。
けど、それでも――。
「乗る」
九条くんと二人でボートに乗ってみたい。
恥ずかしさよりも、気まずさよりも、そう思う気持ちが私の中で勝った。