◇
「おいっ!! オレ今、スゲーことに気がついたんだけどよ!!」
夏休みも半ばに差し掛かり、夕食後みんなで宿題に取り組んでいたところで、夜鳥くんが突然そんなことを言い出した。
「どうせくだらないことでしょうけど、一応聞いてあげますよ。どうしたんです、夜鳥さん?」
「いや、辛辣過ぎだろ!?」
「今までの言動を思えば当然ですよね」
相変わらず夏の気に当てられてテンションの高い男を朱音ちゃんが冷たくいなし、その態度に夜鳥くんが狼狽える。
少々不憫だが、朱音ちゃんの言う通り日頃の行いが悪いので、自業自得ではないだろうか。
「な、なんだよ、ノリ悪りぃなぁ……」
周囲の冷たい反応に一瞬だけ落ち込んだ様子を見せたが、そこはやはり夜鳥くん。
すぐに調子を取り戻して、テンション高く言い放った。
「まぁ聞けって! 海だよ海! せっかくティダに来たってのに、オレらまだ海で泳いでなくね!?」
「え」
「あ」
「は」
その言葉に、冷めた表情のまま宿題をしていた私達の手が止まる。
言われてみれば確かにそうだった。
砂浜でバーベキューしたり、水着でコンテストに出たりもしたが、肝心の〝海で泳ぐ〟という行為はティダに来て早二週間が経つというのに、まだやっていなかった。
「そういえばそうだ。水着まで買ったのに、まだ俺達海に入ってなかったね」
「じゃあ早速、明日は朝イチで海に行きましょーよ!」
「はいっ、賛成ー!」
「ほーらーなぁー? どうだよ!? やーっぱオレって、いい事言うだろーが!!」
得意げにふんぞり返ってドヤ顔する夜鳥くんは、なんかムカつくので徹底スルーで。
「私ボートに乗りたいなぁー」
「いいね、海の家で借りようか」
「熱帯魚見れるかなぁ?」
「ならシュノーケルも準備しないとね」
「おおい! 無視すんじゃねーーっ!! 話で盛り上がる前に、誰かまずはオレのことを褒めろよーーッ!!」
わいわいと。
今日も今日とて騒がしい。
――こうして明日の話題に花を咲かせ、この日は平穏に夜も更けていったのだ。