雨美くん夜鳥くんと別れ、曼珠沙華(まんじゅしゃげ)の部屋に入った私は、ウェイターさんに椅子を引かれ席に着く。


「…………」


 上品な内装に圧倒され、高貴さ溢れる雰囲気に目がチカチカした。なんか場違い感半端ない。完全に自分が浮いてる。はっ! というか、これってもしかしてフルコースとか出てくる感じ!? 
 無理ムリむり! 私はテーブルマナーだってろくに知らない、超庶民なのにぃ~っ!! と内心頭を抱えていると、目の前に何かを差し出された。


「……? あ、メニュー?」


 九条くんから差し出されたのは、いつも学食で見ているメニュー表。受け取って中を開くと、トンカツ定食にサバの味噌煮定食、ハンバーグ定食……。やはりいつもの学食メニューが載っている。


「好きなの頼んでいいよ」


 この高貴な部屋に相応しく優雅に座る目の前の男は、サラリとそう言う。同じ制服姿なのになんでそんなに様になっているんだ。
 でもフルコースじゃなくてよかったぁ……。


「決まったの?」

「うん」


 せっかくの奢りなのだし、一番高価なステーキ定食に心惹かれたが、結局私はいつもの好物を頼むことにした。そして九条くんにメニュー表を渡そうとするが、何故か見もせずにウェイターさんを呼ばれる。


「え」


 九条くんはまだ何頼むか決めてなくない? そう思ったが、しかしすぐにウェイターさんが現れたので、私は仕方なく注文する。すると……、


「俺も同じものを」

「へっ?」


 九条くんの予想外の注文に、私は目をパチクリさせた。


「な、なんで……」

「雪守さんと同じものを食べてみたかったんだ」

「……何それ」


 穏やかな表情で言われて困惑する。なんだかまた胸がむず痒くなってきた。
 もしかして今までもこうやって女子の心を弄んできたのだろうか? 違うなら自覚してほしい。


 九条くんの素が垣間見えるような砕けた表情は、それだけで人をおかしくさせちゃうってこと……。