ギラギラと今日も絶好調で照りつける赤い太陽。
どこまでも清廉に澄み渡る青い空。
更に忘れてはいけないのは、エメラルドグリーンに輝く海。
そんな美しいけれども、ティダではごくありふれた、いつもの見慣れた光景。
その中で一つだけいつもと違うのは、一艘の小さなゴムボートがポツンと海に浮かんでいることだろう。
そしてそのボートを漕いでいるのは――……。
「潮風が気持ちいいね。海面に空が映って、まるで飛んでいるみたいだ」
「う、うん。そうだね」
穏やかな風に吹かれて涼しげに白銀の髪がサラサラと揺れる。
それに髪をかきあげ淡く微笑む九条くんに、私の心臓がバクンと跳ねた。
「あ、まふゆ。あれ熱帯魚の群れだよ」
「ホ、ホントだっ!」
ぎゃあああ!! 顔が近い!! 近い近い近いぃ〜!!
狭いボートの上で九条くんが私に体を寄せて海面を指差すので、私の心臓は壊れたように激しく鳴り響く。
肝試しをした時よりは幾分落ち着いてきたが、自分の気持ちを自覚して以降、私は九条くんをついつい意識し過ぎるようになってしまっていた。
だからなるべくなら二人きりは避けたかったのに、何故かまた私達は一緒にボートに乗っていた。
「あ、見てまふゆ。あっちの群れは黄色に青にピンクだよ。まるで夜鳥と雨美と朱音みたいだね」
「ホ、ホントだっ! 可愛いっ!!」
だ、だから近いってぇ〜〜っ!!
真横でクスクス楽しそうに笑う九条くん。めちゃくちゃ神々しいけど、今の私には目に毒過ぎる!!
うわぁん!! 乗るって言ったのは私だけど、やっぱり恥ずかし過ぎるぅーーっ!!!
……何故こうなってしまったのか?
事の始まりは、あの肝試しから一週間が経った日のこと。
毎度の夜鳥くんの発言がキッカケだった――。