「アンタ達ねぇ……、別にわたしらはリボンを外したことを怒ってるんじゃないよ。途中でばったり出くわした朱音ちゃんをしつこくナンパしてたんでしょ? それでどの口が海神の怨霊だなんて言うんだか。はぁ、全く困った悪ガキ共だよ」

「はぁ!?」


 やれやれとお母さんが首を振るが、今聞き捨てならないことを聞いたぞ! 
 朱音ちゃんにちょっかい出すとは、さっきは一瞬仏心を出しかけたが前言撤回だ! 
 この先一生ぐるぐる巻きの刑でも生ぬるいくらいである!!


「ま、そんな訳でわたしらは悪ガキ共をこのまま親御さんの元に送り届けるから、アンタ達は先に帰ってなさい」

「ではみなさん、お気をつけてー!」

「わーん!! 親にだけは言わないでくださーいっ!!」

「雪守ぃー!! この間のことは謝るから、取り成してくれぇーーっ!!」


 二人の断末魔が聞こえた気がしたが、もちろんスルーして、木綿先生達が小さくなるまで見送る。
 そして姿が完全に闇に紛れて見えなくなったところで、朱音ちゃんが私を見て言った。


「それでまふゆちゃん。無事だったのはよかったけど、二人はどうやって目印もないのに森から出られたの?」

「そうそう、オレら散々森の中は探したんだぜ? なのに全然見つからなくて」

「かと思ったら、いきなり森の入り口に二人して立っていたんだもん。ビックリしたよ」

「それは……」


 あの入り江での出来事をみんなに伝えていいものかと思案して、私は森を振り返る。
 ザンの森は相変わらず不気味で鬱蒼としており、この先にあの美しい入り江があったことなど到底信じられない。

 だけど確かにあの場所は存在していた。
 ……半妖の人魚と共に。


 ザンの森。


 人魚が流れ着く場所と呼ばれるこの森は、確かに不思議で神聖な場所だった――。