「……でも、死ぬ時に母さんは言ったんだ。〝ティダに雪が降ったら、また母さんと会える〟――って」


 カイリちゃんが震える両手をギュッと握り締めて、そう言う。


「雪が……?」


 それによって思い起こされるのは、今までのカイリちゃんの数々の言動だった。


『あたしに氷の妖力をもつ妖怪を紹介してくれ!!』

『いい! あたしはあたしの力だけでアンタに勝ってみせる。そして絶対に、氷の妖力をもつ妖怪に会うんだ……!!』


 じゃあカイリちゃんが氷の妖力をもつ妖怪を探すことにあれだけ必死だった理由は、お母さんに会いたかったから……?


「…………」


 でも、カイリちゃん。

 お母さんがそう言ったのは、きっと――。


「あたしはもう一度母さんに会いたい! 会って謝りたいんだ! だからその為にずっとティダに雪を降らせる方法を探して来た。そしてたどり着いたのが……」

「氷の妖力をもつ妖怪に雪を降らせてもらう……か」


 カイリちゃんの言葉を引き継ぎ、九条くんが呟く。
 確かにそういうことなのだろう。ようやくカイリちゃんのこれまでの行動の理由が理解出来た。

 理解出来たが……。


「けれど氷の妖力をもつ妖怪と言えども、この南国のティダに雪を降らせることなんて可能なのかい?」

「うーん……」


 九条くんの疑問はもっともだ。正直やってみないと分からない。
 まぁ妖術の類いを何も知らない私には、そのやり方すら見当もつかないけど……。


「おい、アンタ」


 頭を悩ませていると、カイリちゃんが私を呼んだ。
 それに少しドキリとして返事をする。


「な、何?」

「あたしが氷の妖力をもつ妖怪を探す理由はこれでちゃんと伝えたんだ。アンタも約束を忘れんなよ」

「も、もちろん! 帝都に戻ったらちゃんと探すつもり」

「ん。だったらいい」


 こくんと頷くカイリちゃんに、また罪悪感で胸が痛んだ。
 何しろカイリちゃんには正体から家族のことまで散々話させておいて、結局私は何ひとつ本当のことを言えていないのである。

 なんて臆病者で卑怯者なんだろう……。