なるほど。ずっとこの森で過ごしていたから、私達は同い年にも関わらず、カイリちゃんのことを全く知らなかったのか。

 うーん。それにしても、カイリちゃんのお母さんかぁ……。
 人魚の女性って、一体どんな人なんだろう? 会ってみたいって言ったら、カイリちゃんに嫌がられちゃうかな?

 色々と想像を膨らませていると、不意にカイリちゃんが呟いた。


「……まぁでも、その生活も10年足らずしか続かなかったけどな」

「え……?」


 どういうこと?

 言わんとする意味が分からず、私が目を瞬かせば、カイリちゃんが微かに笑う。
 その笑いがどこか自虐めいたものに見えるのは気のせいだろうか?


「アンタらがさっきから気にしてる墓、あれが母さんの墓なんだ」

「――――え?」


 お母さんの……お墓……?

 その言葉でカイリちゃんが何故このお墓の前で悲しげに歌っていたのかを悟る。

 けど待って。

 じゃあそれってつまり、カイリちゃんのお母さんはもう――。


「死んだんだ。……いや、あたしが母さんを死なせた(・・・・)んだ」

「――――っ!?」


 耳を疑うような言葉にギョッとすると、カイリちゃんが今度はハッキリと笑う。
 それはまるで悲しみと痛みを堪えるような、苦い苦い笑み。


「アンタ達ももう2回目だし分かってるだろ? このあたしから放たれる不気味な力。昔からそうだった。感情が昂ぶると勝手に妖力が暴れて周囲を傷つける。こんな力のせいで、母さんは――……」

「カイリちゃん……」


 カイリちゃんは爪が食い込むほど両の手を握り締めて立ち上がり、私達と視線を合わせて言った。


「……でも、死ぬ時に母さんは言ったんだ。〝ティダに雪が降ったら、また母さんと会える〟――って」