「…………」
つい先ほどまでビクビクしながら歩いてきた場所とは似ても似つかない表現に、私と九条くんはお互い顔を見合わせる。
「……えーと。カイリちゃんに確認だけど、一本道で野っ原って、〝ザンの森〟のこと言ってるんでいいんだよね……?」
「はぁ? 当たり前だろ。けどザンの森っていうのに、ただの野っ原なんて不思議だよなぁ」
「…………」
どういうことだろう? 彼女が嘘を言っているようには見えない。
不気味な森に見える私達がおかしいのか、それともカイリちゃんがおかしいのか……。
そのまま首を捻っていると、九条くんが「まふゆ」と私を呼んだ。
「森についての考察は後だ。それよりも魚住さん、君について教えて貰いたい」
「な、なんだよ改まって……? あたしはアンタに教えることなんて何も……」
「先ほど君が見せた水色のヒレ。聞かれたくはないようだが、聞かせてもらう」
九条くんの鋭い視線にカイリちゃんはたじろぐが、その様子を気にすることなく、九条くんは言葉を続けた。
「――君は〝人魚〟なのか?」
「!」
静かに、しかしハッキリと聞こえた言葉に、カイリちゃんの肩がビクリと跳ねて視線を彷徨わせる。
「あ、あたしは……」
「君が氷の妖力を持つ妖怪に執着する理由はなんだ? その後ろに建っているものと、関係があるのかい?」
「……え?」
その九条くんの言葉で、ようやく私もカイリちゃんの背後に何かが建っていることに気づく。そういえば先ほどカイリちゃんは、そちらの方を向いて歌を歌っていたんだった。
一体何が建って――。
「あ……」
目にした瞬間、私の口からポロリと声が出る。
「誰かの……お墓?」
――そう。
彼女が腰掛けてた岩場の更に向こう。飛び石のようにそびえる少し背の高い岩場に建っていたのは、小さな石碑のようなお墓だった。
何か文字らしきものが刻まれているが、それは暗くてよく見えない。
「? なんて書いて……」
そこでもう少し近づこうと足を前に踏み出した瞬間、鋭い声が静寂を切り裂いた。
「その墓に近づくなっ!!!」
「!!」
カイリちゃんが叫んだ瞬間、私の体が急に何かに弾かれるような衝撃を受け、一気に吹き飛ばされる。
そしてそのまま地面に叩きつけられ、激しい衝撃が背中に走る――!!
……ことはなかった。