「アンタ達……、なんでここに……」


 ザンの森を抜けた先。
 小さな入り江の端に浮かぶ岩場に腰掛けて美しい歌声を響かせていた人物は、カイリちゃんだった。

 そしてそんな彼女の腰の先から伸びる、その美しい水色のヒレが意味することは――……。


「…………っ、見んな!!」

「わぷっ!?」


 私達の視線がヒレに集中していることに気がついたカイリちゃんが、そのヒレを使って海水を(すく)い、バシャッ! と勢いよく私達にかけた。
 
 それによって服はずぶ濡れだが、それよりも何よりも――。


「痛ッ!! 痛ぁ~いッ!! 海水が目に入ったぁーーっ!!」

「大丈夫かい!? まふゆ!」

「ジロジロと人の足を見てんからだろ!!」

「うう……。見たのは謝るけど、海水を目にかけるのはヒドイ……」


 ズキズキと目に()みる海水を手で拭いながら、私はそうこぼす。
 そして痛みがようやく(やわ)らぎ、目が開けるようになった頃には、既にカイリちゃんの足はヒレではなく、いつもの二本足へと戻っていたのだった。


「……それで?」


 そのまま腰掛けていた岩場に立って腕を組み、カイリちゃんが警戒するように私達を見下ろす。


「なんでアンタらがここにいんだよ?」

「なんでって、えっと……。私達は肝試しをしに来てたんだよ。そしたらいきなりこの場所に出ちゃって……。むしろカイリちゃんこそ、どうしてここに?」

「肝試しぃ? あたしはここに住んでんだよ。ほら、あの家」


 そう言ってカイリちゃんが私のすぐ横を指差したので目線をやれば、確かに側には小さな赤瓦の家が一軒だけポツンと建っている。

 まさかこんな森の奥に人が住んでいたなんて……。

 私が驚きに目を見開くと、カイリちゃんが呆れたように溜息をついた。


「しっかし、アンタらもわざわざこんな場所で肝試しなんて変わってるな。道は一本道で単調な上に、ずーっと入り江まで野っ原が広がってるだけで、全く肝試しになんてならないだろーに」

「え?」


 カイリちゃんの言葉に私は目を瞬かせる。

 一本道……? 野っ原……??