◇


「――――え?」

「まさか森の奥が、こんな場所に繋がっていたなんて……」


 歌声を頼りに歩くこと少し。
 突然目の前に現れたのは、小さな入り江だった。

 澄み切った星空に、ザーンザーンと静かに波が打つ音が響いて、言葉では言い表せない程になんとも美しい。


「まふゆ、あれ」


 景色に目を奪われる私に、九条くんが静かな声である一点を示す。


「あ」


 見れば入り江の端。海に浮かぶ岩場の上に、私達を背にして誰かがひっそりと腰掛けていた。


「――――――」

「!」


 すると耳に流れてくるのは、森で聞いた時よりもずっと間近に聞こえる歌声。
 その声は星空のように美しく澄んでいるのに、どこかもの悲しい。

 間違いない。
 あの岩場に腰掛けた人物から歌声は響いている。


「――――――」


 そのまま私達は誘われるように、ゆっくりとその歌声の主へと近づく。
 ジャリっと砂浜を踏みしめる音がしても、歌に夢中なのか目の前の人物は私達に気づかない。

 そうしてついにその背中を目前に捉えた時、私は歌声の主が見覚えのある水色のショートヘアだということに気づいて、驚きに目を見開いた。


「カ、イリ……ちゃん……?」

「――――っ!?」


 思わずこぼれた言葉に、歌声の主は驚いたように歌うのを止め、勢いよくこちらへと振り返る。

 そして目が合った瞬間、目の前の人物は呆然と呟いた。


「アンタ達……、なんでここに……」


 元々大きな水色の猫目をより大きくし、こちらを食い入るように見つめるのは、やはり紛れもなくカイリちゃんで。

 そして振り返った拍子に見えた、彼女の腰から先にすんなりと伸びるもの。

 それは、美しい水色のヒレだった――。