ど、どうしよう。
九条くんの手を思いっきり払い除けてしまった……。
恐らく私の顔を見ているであろう、その顔を見ることが出来ない。
怒ったかな? 嫌われたかな?
謝らなきゃと思うのに、次々と勝手に頭に浮かぶ嫌な想像に振り回されて、感情が上手くコントロール出来ない。
口もまるで縫いつけられたかのように動かなくて、結局いつまで経ってもモゴモゴしたままだ。
「まふゆ」
するとそんな私にもう一度九条くんが手を伸ばし、今度こそ私の手は九条くんの手にそっと包まれた。
「あ……」
先ほどは触れられた瞬間どうにかなってしまいそうだと思ったのに、実際には手から九条くんの高い体温がじんわりと伝わってきて、ホッと心が落ち着くのを感じる。
それは最初は怖かった、でも今は心地いい感覚。
揺蕩うようにうっとりと目を閉じると、九条くんが私の手を握ったままゆっくりと口を開いた。
「まふゆ。君が今日のコンテスト終わりからどこか俺に対して様子がおかしいことは、気がついているつもりだ」
「!」
その言葉にハッと目を開けば、その金の瞳はジッと私を見つめている。
それに全てを見透かされるような感覚に陥り、私はギクリと肩を強張らせた。
しかし同時に、そりゃそうだろうとも思う。
なにせ自分でも分かるくらい、露骨に態度がぎこちなく変だったのだ。九条くんが気づかない訳がない。
「きっと……俺のことでまた何か悩んでいるんだろうし、その悩みをすぐに取り除いてあげたいとも思うけど、君はそれを俺に話すつもりはないんだろう?」
「それは……」
鋭い言葉にまた胸がドキリとする。
そんなことまで分かってしまうなんて、まさか本当に私の気持ちを見透かされているんだろうか?
「だったら無理に聞き出したりはしない。でも君が話したいタイミングで、いつか話してほしい。前にも言った通り、俺はいつだってまふゆに頼ってほしいと思っているんだから」
「九条くん……」
心配そうな顔。
様子を察するに、どうやら私の気持ちまでは悟られてはいないようだ。とりあえずホッと安堵する。
しかしそれ以上に、私の心は嬉しさでいっぱいだった。
些細な私の変化にも気づいてくれるのが嬉しい。
心配して、頼ってほしいと言ってくれるのが嬉しい。
そして何よりも――。
私を思って九条くんが心を砕いてくれることが、こんなにも嬉しい。
「……うん。きっといつか言う。絶対に」
――私、やっぱり九条くんが好き。
自覚した想いを噛み締めるようにして、そう心の中で呟いた。