「実は……昔からこういう、いかにも何か出そうな雰囲気の場所は……苦手なの」
結局私は少し躊躇った後、反論の代わりに秘めていた本音をポツリと漏らす。
「そっか。じゃあ俺を探しに九条の屋敷の地下室まで来てくれた時なんて、最悪だったんじゃない?」
その言葉に、私は思わず顔を顰めて頷いた。
「そりゃあもうね。あの地下室は雰囲気といい、造りといい、階段を降りるのにもの凄く勇気が必要だったよ!」
「それなのに、たった一人で来てくれたんだ?」
「そりゃそうだよ! あの時は怖いなんてことよりも大事な――……」
言いかけてハッとする。
そうだ、あの時は今以上に震えそうに怖かった。
一人で未知の場所へと向かう恐怖。
九条くんが無事でいるのかも分からない恐怖。
今でも全部鮮明に覚えている。
だけどあの時の私は、恐怖以上に九条くんを連れ戻すことで頭がいっぱいで。
どんなに怖くても、その一点で頑張れた。
……あれ?
それってもしかして私。
あの時からとっくに九条くんのことを――……。
「――――――ッ!!」
思い至った瞬間、一気に私の体温が急上昇するのを感じた。
ダメだ! 今の私は間違いなく、雪女の癖にタコよりも顔を真っ赤にしているに違いない!!
やっぱり意識しないようになんて出来ないよ!! だって二人きりで肝試しだなんてシチュエーション、もう無理ゲー過ぎるっ!!
「すーはーっ! すーはーっ!」
とりあえず深呼吸して、己の意に反して勝手に上昇する体温や早まる鼓動を鎮めようとするが、全然上手くいかない。
「まふゆ?」
するとやはりというか、なんというか、そんな私の奇行を訝しく思った九条くんが眉を寄せた。
「どうしたの? 何度も深呼吸して。すごい震えてもいるけど、やっぱり怖い?」
「!!」
動揺する私の瞳に、心配そうな顔をした九条くんがこちらに向かって手を伸ばしてくる姿が映る。
いや、待って! 今触れられでもしたら、私、私――……!!
「――――ダメっ!!!」
「……まふゆ?」
「…………あ」
ドッドッドッと心臓が酷い音を立てる。
気がつけば九条くんの手を私は振り払っていて、それを自覚した瞬間、一気にのぼせ上っていた頭から血の気が引いた。
「…………」
シンと辺りが静まり返り、元々不気味だった森が一層不気味さを増す。
狐火の薄ぼんやりとした光の中、九条くんが自分の払い除けられた手と私を交互に見ている。