ホーホー。

 遠くでフクロウの鳴く声がする。

 月明かりも木々に阻まれて差し込まない真っ暗な森を九条くんの狐火で照らしながら、私達は木に括りつけられた赤いリボンを頼りに進んで行く。


「まふゆ。そこ、木の根が飛び出しているから気をつけて」

「あっ、うん」


 私を先導するように前を歩いていた九条くんが、そう言って振り返った。
 すると彼の秀麗な顔が狐火に照らされて、それに私は惹きつけられるように目が離せなくなる。

 やっぱり九条くんってカッコいいな……。
 金色の瞳に狐火の炎が揺らめいて、貰ったホタル石よりも綺麗……。

 ――って! また何考えてんの!? わた……。


「ホーーッ!」

「ぎゃあああああっ!?」

「ちょっ、まふゆ大丈夫!?」

「だ、だいじょーぶ……!」

「ただのフクロウみたいだよ、ホラ」


 また尻餅をつきそうになるのをなんとか堪えると、九条くんがそう言って私の後ろを狐火で照らす。
 すると確かにちょうど背後の木から、フクロウらしき影がバサバサと飛び立って行くところであった。

 な、なんだよもう、脅かさないでよ。
 また私の情けない悲鳴を九条くんに聞かれてしまったじゃないか。
 ああもう、思い出すだけで恥ずかしい。


「……ごめん。いちいち騒がしくて」


 恥ずかしさを表情に出さないようにしながら謝れば、九条くんが首を横に振った。


「いいよ。むしろまふゆにも怖いものがあるって知れて嬉しいから、気にしないで」

「怖っ……!?」


 聞き捨てならない言葉に、思わず声が上擦る。
 そしてそのまま反論しようと口を開くが、しかし私は何も言うことが出来なかった。

 何故なら九条くんは言葉通り、本当に嬉しそうに微笑んでいて……。

 なんだその顔、ズルい。
 そんな表情を見せられてしまえば、否定の言葉なんて言えないじゃないか……。