そういえば話に夢中ですっかり忘れてたけど、私達は肝試しをする為にザンの森へ来ていたんだった。
出来ればいっそもう忘れたままでいたかったが……。
「はい、まふゆの番」
「あ」
遠い目をしていると、いつの間に木綿先生からお母さんの手に渡ったのか、クジの箱をぐいぐいと私に押し付けてくる。
それに私はゆっくりと箱の中に手を入れて、ゴクリと喉を鳴らした。
「さーて、まふゆは誰とチームになるのかなぁー?」
「……」
囃し立てるお母さんの声は無視して、ドキドキと心臓が激しく鼓動を刻むのを感じながら、私は箱の中に入れた手を彷徨わせて強く念じる。
願うのはただひとつ……。
どうか……。
どうか九条くんとは違うチームになりますように……!!
◇
「おおーっ! 結果はそうなったのねーー!」
それぞれが引いたクジを見ながら、お母さんがうんうんと頷いた。
対してクジを引いた当人達は嫌そうに叫ぶ。
「はぁ!? 水輝と一緒かよ! いつも通り過ぎてつまんねー!」
「それはボクの台詞なんだけど! けど不知火さんも一緒なら、なかなか楽しくなりそうだね」
「はいっ! 一緒に夜鳥さんを怖がらせましょう!!」
「いや、肝試しってそういうんじゃなくね!?」
なんだかんだと楽しそうに騒ぐ三人。
そんな彼らををよそに、私は引いたクジを握り締めてプルプルと震えた。
だって朱音ちゃんと夜鳥くんと雨美くんがチームってことは、私と組むのは…………!
「俺はまふゆとか。……まふゆ?」
「う゛ぇ!? う、うんっ!! よろしくね、九条くんっ!!」
背後から声を掛けられて肩をビクつかせた私は、ギクシャクと九条くんに笑みを浮かべる。
ヤバいっ!! また声が裏返った上に、妙にテンション高く返事してしまった!! これじゃあ絶対に九条くんに変に思われるよ……!!
もう絶対に意識しない。意識しない。意識しない……。
「はーい。じゃあ無事にチームも決まったことだし、各チーム出発してー。楽しんで来んのよー!」
脳に刷り込むように念じていると、お母さんがパンパンと手を叩く。
するとそれが合図となって、肝試しは始まった。
「しゃーねー、ボチボチ行くか」
「だね」
「まふゆちゃん、お互い頑張ろーね」
「うん。朱音ちゃんも」
手を振って見送れば、朱音ちゃん達が私達とは逆の方向から森の中へと入っていく。
「じゃあ俺達も行こうか」
「う、うん」
「みなさーん、頑張ってくださいねー!」
木綿先生の声援を背に、九条くんに先導された私は、ゆっくりと不気味な森の中へと足を踏み入れる。
ああ、なんでこうなったんだろう……?
目の前で揺れる広い背中を見てドキドキと心臓がうるさいのは、恐怖か緊張か?
ぐちゃぐちゃな気持ちを抱えつつも、こうして私達の肝試しは幕を開けたのだった。